売掛金を回収したい,工事を完了したにもかかわらず報酬が支払われない,このような場合は,売上が上がっているにもかかわらずキャッシュを確保できないので,売上が絵に描いた餅になってしまいます。
相手方の未払があったとしても,それが,相手方が支払う資力があるにもかかわらず支払わないのか,それとも資力が無くて支払わないのか,それぞれによってとるべき手続は異なってきます。
したがって,このような場合に代金を回収するためには,相手方の状態に応じた迅速かつ適切な方法をとる必要があります。以下では,債権回収の具体的な方法について解説を致します。
目次
【内容証明郵便】
まず,債権回収の初期に取る方法としては,内容証明郵便を相手方に発送する方法があります。この内容証明郵便を相手方に送る方法により,相手方に債権回収に対する本気度が伝わるため,内容証明郵便の発送によって相手方が支払いに応じることもあります。
特に,弁護士名での内容証明郵便が発せられた場合は,相手方の立場からすれば,弁護士に依頼してまで支払を求めているということがわかると共に,支払に応じない場合は,次の手続に移行する可能性があると脅威に感じるため任意に支払をすることもあります。
他方で,内容証明郵便は,相手方が受領しなければ戻ってきてしまいますので,受領を拒む可能性があり,しかも相手方が財産を隠して逃げる可能性がある場合は,内容証明郵便よりも後述の仮差押を行うことをお勧めします。
なお,相手方に対し,売掛金のみならず買掛金がある場合は,相殺をする方法により債権回収を図る場合もあります。この相殺をする時も,内容証明郵便を利用して相殺の意思表示をすることが望ましいと言えます。
【仮差押】
裁判を開始したとしても,裁判が終わるまでに早くても数カ月は要しますので,その間に相手方の財産が散逸してしまう可能性があります。これを防ぐための手段が仮差押です。
相手方の銀行口座や,保険の解約返戻金,不動産等を仮に差し押さえることによって,これらの財産を処分されることを防ぎ,じっくりと相手方の財産から債権を回収することができます。
注意しなければいけないのは,仮差押をするにあたっては担保金が必要になりますので,あらかじめまとまった資産を準備する必要がありますということです。また,仮差押をするにあたっては,裁判所に対して,こちら側の権利の存在と仮差押の必要性を疎明しないといけないので,ある程度の知識とノウハウが必要になることにも注意が必要です。
【支払督促・少額訴訟】
相手方に対し金銭債権を有しており,証拠もそろっている場合は,支払督促や少額訴訟という制度を使うことができます。
まず,支払督促とは,相手方が支払督促に対する異議を述べなかった場合は,それに基づいて強制執行をすることができる制度です。
ただ,支払督促に対し異議が出た場合は,訴訟に移行するため,支払督促は,権利関係・事実関係に争い無い状態であるが相手方が支払いに応じない場合等,使う場面を限定したほうが良いと言えるでしょう。
次に,支払督促の他に少額訴訟により債権を回収することもできます。
少額訴訟とは,請求権が60万円以下の場合に,簡易裁判所に訴訟を提起する手続です。この少額訴訟は,通常の訴訟とは異なり1回の審理において結論が出て,判決が出されます。
ただ,支払督促と同じく,この少額訴訟も異議が出た場合は,通常訴訟に移行するので,相手方の対応を予想して手続を選択することが必要になります。
【即決和解・公正証書】
即決和解とは,当事者間で合意ができている場合において,裁判所に対し申立てを行い,裁判所がその合意を相当と認めるときは,調書を作成しそれに基づき強制執行ができる状態にする手続をいいます。
この手続の一番の意義は,金銭債権以外の権利についても強制執行が可能になるという点です。例えば,建物の明渡や立退き等,請求権が金銭的なものでなくても,即決和解によって強制執行が可能な状態になります。
次に,公正証書とは,公証役場で公証人が作成する書類になります。この公正証書を作成するに当たり,金銭債権について強制執行を認諾するという文言を公正証書の中に入れることによって,相手方が約束を守らない場合は,裁判によらずに直ちに強制執行をすることができます。
ただ,公正証書により直ちに強制執行ができるのは,対象となる債権があくまで金銭債権である場合に限られます。したがって,建物の明渡等の金銭債権以外の債権の場合は,訴訟を提起するか,前述の即決和解を利用することになります。