認知症の親や兄弟に遺言書を作成してもらうにはどうしたらよいか

 ▼ 既に認知症の親や兄弟が作成した遺言書が存在し相続開始後に無効にできるか否かについてはこちらをご参照ください。

 遺言書は,遺言者が自発的に作成するケースと,遺言者の親族が遺言者に作成を依頼し,それを踏まえて遺言者が遺言書を作成するケースがあります。

 もっとも,例えば,遺言者である親等に遺言書を作成してもらうことになったが,遺言者が認知症の場合または認知症の疑いがあるようなケースもあります。

 このように遺言者である親や兄弟が認知症である場合,遺言書を作成することをあきらめなければならないのでしょうか。

 本ページでは,認知症の親や兄弟に遺言書を作成してもらうにはどうしたらよいかについて解説を行います。

遺言者が認知症であるからといって遺言書を作成できないわけではない

 遺言書を作成するためには,法律上,遺言能力が必要とされております(民法963条)。

 したがって,遺言者が遺言書作成時において遺言能力を有していない場合は,遺言書を作成したとしても無効になります。

 もっとも,遺言者が認知症であるからといって,遺言能力を直ちに欠いているということにはなりません。

 認知症といっても,その症状には軽重があり,また,認知症の種類や症状によって認知症によって低下している能力にも違いがあります。

 認知症によって一部の認知能力に低下がみられたとしても,なお遺言能力を欠いていなければ遺言書を作成することができることになります。

 したがって,このような認知症の程度や症状を踏まえて,遺言者が遺言能力を有しているかどうか検討した上で遺言書の作成を行う必要があります。

認知症の場合に遺言書を作成するためには作成前の医学的法的調査・検討が重要

 前述のとおり,認知症の場合であっても遺言能力を欠いていない場合は,遺言書を作成できることになります。

 もっとも,遺言能力を欠いているか否かは,様々な事情を基に事後的に判断されるため,簡単に判断できるものではありません。

 他方で,遺言能力の有無を簡単に判断できないとしても,事前に認知状況の確認及び検討を行い,記録を十分に残しておくことによって,遺言を無効にしづらくすることができます。

 そこで,遺言書が無効になることを防ぐために,その作成にあたっては事後的に争われても有効と言えるだけの準備を行う必要があります。

 具体的には,遺言書作成前において,法的な側面及び医学的な側面から遺言能力を有しているか否かを調査・検討した上で遺言書を作成する必要があります。

遺言能力の有無に関する法的な側面からの調査・検討

 認知症によって遺言能力が失われていないかという点の法的な側面に関しては,将来どのように遺言書の効力が争われるのかという点を踏まえる必要があります。

 すなわち,遺言書の有効性に疑問が生じた場合,将来,遺言無効確認訴訟と呼ばれる裁判が提起されることなります。

 この遺言無効確認訴訟が提起された場合においては,遺言者の認知症の程度や遺言書の難易度や文量,作成過程や作成動機の合理性等を踏まえて遺言書の効力が判断されます。

 そして,これらの要素のなかでも,遺言者の認知症の状態が重要になってきます。

 そのためには,医師のカルテや介護認定における認定調査票,主治医意見書等の記録を確認して,認知状態を正確に把握することが必要になります。

 その上で,認知症の程度等にもよりますが,例えば,遺言書の内容が複雑なものである場合は,遺言書が無効になりやすくなってしまうため,よりシンプルな内容に変更する必要が生じることもあります。

遺言能力の有無に関する医療的な側面からのチェック

 認知症の有無及び程度の判断等は医療的な事柄であるため,認知症の程度や症状を把握するためには,医師による診断が必要になります。

 したがって,遺言書作成の前に,従前の医師の診断内容等を確認する必要生じます。

 その上で,認知症によって遺言者がどのような状況であるのか,また,どのような能力が阻害されているかを医師に相談の上で,遺言書の作成内容についても理解できるかを確認することになります。

 医師の診断を受けてもなお遺言書の作成が難しいということであれば,遺言書の作成を断念するケースも当然出てくることになります。

遺言者が認知症のケースにおける遺言書を作成する具体的な手続

 遺言者が認知症のケースにおいて遺言書を作成する場合は,自筆証書遺言ではなく,公正証書遺言によって作成することが望ましいです。

 公正証書は公証人が関与の下作成される遺言書であり,公証人は,法律実務経験が豊かな者の中から選任され(公証人法13条),その多くは裁判官または検察官のうち一定の地位を有していた者です。

 そして,公証人は,無効な法律行為による証書を作成することはできません(公証人法26条)。

 したがって,公証人が公正証書遺言書を作成する場合においては,遺言者が遺言能力を有しているか否かをチェックすることになります。

 公正証書遺言はこのようなチェックを経た後に作成されるため,自筆証書遺言と比較して,遺言能力を欠くと後々判断される可能性が低くなります。

 したがって,遺言者が認知症の時には,自筆証書遺言書ではなく公正証書遺言によって遺言書を作成すべきでしょう。

終わりに

 以上,認知症の親や兄弟に遺言書を作成してもらうにはどうしたらよいかについて解説を行いました。

 解説のとおり,遺言者である親や兄弟が認知症であっても遺言書は作成できますが,作成に当たっては,遺言書が無効にならないように法的及び医療的な側面からのケアが必要になります。

 このようなケアを行い,遺言書の効力に疑義が生じないためには,遺言の有効性に関する紛争をよく理解した弁護士に依頼するのが望ましいと言えます。

 遺言書の作成ができるか微妙なケースもありますので,相続紛争案件を取り扱った経験のある相続問題に詳しい弁護士に相談をされることをお勧めいたします。

 東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,遺言書作成を含む相続案件に注力しております。

 遺言書作成希望者が認知症の場合における遺言書作成に関するご相談についてはお気軽にお問い合わせください。

 

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