日本の労働者人口減少による外国人労働力の確保が問題となっています。
このような課題から,入管法が改正され,平成31年4月より改正入管法が施行されます。そこでは新たな在留資格として「特定技能」が設けられています。
この「特定技能」とは別に,平成29年11月に施行された技能実習法に基づき外国人技能実習制度が存在するのですが,上記「特定技能」との違いはどのような点にあるのでしょうか。
本コラムでは,上記制度の違いについて,東京都中野区所在の企業法務を扱う弁護士が解説を行いたいと思います。
▼:特定技能に関するよくある質問については,こちらをご覧ください。
▼:外国人労働者雇用の際の一般的な注意点については,こちらをご覧ください。
なお,特定技能制度については,まだ改正入管法が未施行であるため,法務省で交付されている資料に基づく解説になることにご留意ください。
外国人技能実習制度と特定技能制度の目的の違い
外国人技能実習制度の目的
外国人技能実習制度とは,「人材育成を通じた開発途上地域等への技能,技術又は知識の移転による国際協力をすること」(外国人技能実習法第1条)を目的とする制度になります。
要は,外国人技能実習制度は,外国人に対する技能移転を目的とする制度になります。
この目的からもわかる通り,外国人技能実習制度は労働力の確保を目的とするものはありません。
むしろ,外国人技能実習法では,技能実習が,労働力の需給の調整の手段として行われてはならないことが定められています(法第3条2項)。
「特定技能」制度の目的
これに対し,特定技能制度の目的は,正に外国人労働者の確保による労働力不足の解消のために制定されたものになります。
したがって,外国人技能実習法と特定技能制度では,労働力の確保を目的とするか否かという点で目的が大きく異なると言えます。
このような目的の違いから,外国人技能実習制度では転籍・転職等が原則として認められていないのに対し,「特定技能」では,転籍・転職等が可能になっています。
外国人技能実習制度と特定技能制度のそれぞれの仕組み
外国人技能実習制度の仕組みについて
外国人技能実習制度においては,
①企業単独型
②監理団体型
の2種類があります。①の企業単独型については,例えば,外国企業と親子関係にある会社間において,当該会社に対し技能移転を行うため外国人労働者の受け入れを行う場合がこれにあたります。
もっとも,外国企業と親子関係にあるという例からもわかる通り,この類型はある程度の規模の会社であることが想定されます。
そのため,外国人技能実習においては,次の監理団体型を利用する場合の方が多いのではないでしょうか。
②の監理団体型ですが,これは,実際に外国人の受け入れを行う「実習実施者」の他に,「監理団体」という,外国人技能実施制度が目的に沿って行われているかを確認する団体が存在する類型になります。
外国人技能実習において,多くはこの類型を利用するのではないでしょうか。
この類型では,外国人労働者の受け入れに当たり,概ね以下の流れで手続が進んでいきます。
①監理団体による指導・助言の下実習実施者が実習計画を提出した後,
②外国人技能実習機構が実習計画の審査・認定を行った後,実習実施者に認定通知書を交付し,
③監理団体が認定通知書を添付して入管に対し在留資格認定の申請を行い
④入管から監理団体が在留資格認定書の交付を受け,技能実習生が送付を受けた当該認定書と査証を取得し入国する。
⑤入国後は,技能実習計画に従って技能実習を行う。
外国人技能実習制度の場合,概ね上記流れで手続が進んでいくことになります。
特定技能制度の仕組みについて
新たに創設された特定技能制度の場合,
①特定技能1号
②特定技能2号
という在留資格がそれぞれ設けられています。
前者の特定技能1号というのは,介護やビルクリーニング,建設等の14分野の産業について,外国人がこれらの就労を目的として日本に在留することができる資格になります。
在留期間としては,最長5年になり,在留資格の取得に当たり生活や業務に必要な日本語能力が必要になります。
後者の特定技能2号というのは,同1号を発展させたものであり,同1号よりも更に熟練した技能を有する者が取得できる在留資格になります。
特定技能制度の場合は,外国人の他,外国人の雇用先となる「受入れ機関」,「受入れ機関」が行う外国人の支援計画に基づく支援の援助を行う「登録支援機関」が存在します。
そして,「受入れ機関」である企業が外国人労働者の受け入れを行うに当たっては,外国から受け入れるのか,国内から受け入れるのかにもよって多少異なりますが,
①当該外国人との特定技能雇用契約の締結
②(受入れ機関である企業が外国人の支援ができない場合)登録支援機関との委託契約の締結
③受入れ機関による特定技能外国人支援計画の作成
④在留資格認定・在留資格変更許可の申請
という流れで進んでいくことになります。
外国人技能実習制度及び特定技能制度の注意点
外国人技能実習制度の注意点について
外国人技能実習制度のうち,特に利用されるのが監理団体型であるため,監理団体型における注意について論述します。
【監理団体における注意点】
監理団体が監理事業を行うためには,主務官庁の許可が必要であり,許可のための要件がそれぞれ定められています。
例えば,許可要件の一つとして「監理団体の業務の実施の基準に従って事業を適正に行うに足りる能力を有すること」が必要です。
上記要件を具体化するために,外国人技能実習規則では監理業務の実施の基準を設けているのですが,監理団体を運営するためには,前期基準を守らなければなりません。
このような基準を守らない場合,許可の取消等がなされてしまうため,注意が必要です。
【実習実施者の注意点】
外国人技能実習制度において,技能実習生との間で雇用契約を締結するのは,実習実施者になります。
したがって,技能実習生との間の雇用契約の締結においては,労働基準法等労働法規に従う必要があります。
また,実習実施者は,技能実習計画に従った技能実習を行う必要があります。
技能実習計画に従わない技能実習を行った場合,技能実習計画が取り消され,技能実習ができなくなってしまうこともありますので,技能実習計画に従った技能実習を行うよう注意しましょう。
特定技能制度の注意点について
特定技能制度を利用して外国人と雇用契約を締結しますが,この雇用契約は,外国人であるからと言って報酬額を不当に安くすることはできません。
雇用契約についても労働基準法の適用がありますので,これらの法令を遵守することが必要になります。
終わりに
以上,外国人技能実習制度及び特定技能制度について解説を致しました。
人手不足のために外国人を労働者として雇い入れる場合は,まずは制度を理解するとともに,これらに対する法規制について理解を深める必要があります。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,外国人技能実習制度や特定技能制度を含めた労働問題・企業法務問題についてご相談を随時受け付けております。
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