有責配偶者はどれくらい別居をすれば離婚できるか

 夫または妻の一方が不貞をしたところ,不貞をした側(以下では「有責配偶者」といいます。)が他方の配偶者に対し離婚を請求することがあります。

 このような場合は,後に述べる通り,原則として不貞をした側からの離婚請求は難しくなります。

 もっとも,長期間の別居等を条件とすれば,離婚ができることもあります。

 以下では,有責配偶者はどれくらい別居をすれば離婚できるか,そして,夫婦の一方が有責配偶者の場合にとるべき対応について解説をしていきます。

有責配偶者からの離婚を制限する最高裁判例

 有責配偶者からの離婚が認められるかについて,最高裁大法廷昭和62年9月2日判決は,次のように判示しています。

『有責配偶者からされた離婚請求であつても、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。』

※数字及び下線部は加筆しています。

 この判例では,不貞行為等をした配偶者からの離婚請求は原則として認められないとした上で,平たく言えば,

①長期間の別居

②夫婦間に未成熟の子供がいない場合

③離婚をしても離婚請求をされた配偶者が苛酷な状況にならない場合

には,例外的に離婚請求が認められるとしています。

 この判例にしたがい,現在でも上記要件を踏まえて離婚請求が認められるか否かを検討することになります。

有責配偶者はどれくらい別居すれば離婚できるか

 上記最高裁判例のとおり,有責配偶者からの離婚が認められるためには,①長期間の別居が必要でした。

 それでは,①長期間の別居とは何年程度でしょうか。こちらはよくいただく質問になります。

 しかし,こちらの質問に対する回答は,残念ながら「事案による」と言わざるを得ません。

 なぜならば,上記最高裁判例の判示事項を確認するとわかるように,判示事項では「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間」と記載されています。

 つまり,婚姻期間が短い夫婦であればそれだけ必要な別居期間は短くなりますし,他方で,熟年離婚となった場合はそれだけ同居期間も長くなるため必要な別居期間は長くなります。

 したがって,必要な別居期間はそれぞれの夫婦関係によることになります。

 一般論及び感覚的な部分を述べれば,昨今では必要な別居期間は従前よりも短くなっておりますが,5年から10年は必要であると考えられます。

 ただ,他方で,同居期間が7年,別居期間が2年程度であっても有責配偶者からの離婚請求を認めた事例(東京高裁平成26年6月12日判決)もありますので,上記別居期間は一つの目安と考えた方が良いです。

 なお,長期の別居期間の要件が認められた場合でもあっても,先のとおり,②夫婦間に未成熟子がいる場合や③離婚によって他方配偶者が苛酷な状況となる場合は,要件をみたさず離婚できないことになります。

 したがって,上記別居期間はあくまで一つ目の要件を充たすという意味合いになります。

夫婦の一方が有責配偶者の場合にどのような対応をすべきか

 それでは自身が有責配偶者にあたる場合,または,有責配偶者である他方配偶者から離婚を請求された場合はどのような対応をとるべきでしょうか。

夫婦の一方が有責配偶者に該当するかを検討する

 まずは,証拠上不貞の有無が認められるかを検討することになります。

 有責配偶者といえるためには,本人が認めない限り,不貞が認められるための証拠が必要になります。

 したがって,不貞が認められるだけの証拠があるか否かを確認しましょう。

有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件を確認する

 例えば,有責配偶者であっても,別居期間が30年以上であり,子供もおらず,他方配偶者に高額な収入もある場合は離婚請求が認められる可能性は高くなります。

 他方で,婚姻期間がある程度長期に及んでいるにもかかわらず,別居期間が短く離婚請求が認められづらいケースもあります。

 前者のように離婚請求が認められる見込みが高い場合は,他方配偶者が離婚を拒否したとしても,自身の希望が通る可能性があるため,ある程度強気の交渉になります。

 他方で,後者のように現時点で離婚請求が認められない場合,交渉が決裂した場合は自身の希望が通らないことを見越して交渉を行う必要があります。

 したがって,有責配偶者である自身が離婚請求する場合でも,されている場合でも,将来の見通しを持つために,まずは有責離婚請求が認められるための要件を充たすか確認しましょう。

有責配偶者からの離婚請求の要件を充たす場合と充たさない場合の対応

離婚請求が認められる見込みが高い場合

 離婚請求が認められる見込みが高い場合は,その点を踏まえて他方配偶者と交渉を行います。

 交渉にあたっては,早期解決と希望する解決内容等を天秤にかけて交渉を行っていくことになります。

離婚請求が認められない見込みが低い場合

 離婚請求が認められる見込みが低い場合であっても,離婚請求する側は諦めないといけないかというと,そうではありません。

 このような場合でもあっても,他方配偶者がどのような理由で離婚を希望しないかを踏まえつつ,条件面を調整して交渉を行うことになります。

 そして,このような相手方の状況を踏まえた交渉を行うことは,有責配偶者からの離婚請求が認められるための三つ目の要件である「離婚をしても離婚請求をされた配偶者が苛酷な状況にならない場合」と関連することになります。

 なお,このような場合は,離婚が完了するまで発生する婚姻費用額(毎月の生活費)等を踏まえた交渉をすることが選択肢に入ってきます。

 なぜならば,離婚を希望しない配偶者は離婚をしない場合には,離婚が完了するまで同額の生活費が受領できる見込みがあるからです。

さいごに

 以上,有責配偶者はどれくらい別居をすれば離婚できるかについて解説を行いました。

 また,夫婦の一方が有責配偶者である場合の対象方法についても解説を行っております。

 東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,夫婦の一方が有責配偶者である離婚事件についての複数の解決事例がございます。

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