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相続した遺産に土地や建物の共有持分が存した場合の注意点と分割方法
相続が発生したときに,遺産の中に土地や建物等の不動産の共有持分が含まれていることがあります。
遺産の中に土地や建物等の不動産の共有持分が含まれている場合,通常の遺産と異なり,他の共有者が存在するため,通常の遺産の遺産分割とは異なった注意点が存在します。
本コラムでは,相続開始後,遺産の中に土地や建物の共有持分が含まれた場合の注意点や分割方法について解説を行います。
遺産に不動産共有持分が含まれる場合は特性を踏まえて分割を行う必要がある
まず,前提として,土地や建物等の不動産の共有持分も遺産であるため,遺産分割が必要になります。
遺産分割の対象は土地全体の所有権ではなく,あくまで共有持分のみが対象となります。
したがって,遺産である共有持分をどのように分割するか(相続人の誰かがそのまま取得するか,売却して分けるか等)を相続人間で協議することになります。
もっとも,土地や建物等の不動産の共有持分の遺産分割の場合,共有持分を取得したとしても共有持分がそれのみでは使い勝手が悪く,また,遺産分割が完了してもその後の手続を要することもあります。
そのため,遺産分割が最終的な解決とならないことも多いため,遺産分割にあたっては,土地や建物等の不動産の共有持分が持つ特性を踏まえて最終的な解決ができるような分割方法を考える必要があります。
不動産の共有持分そのままでは不動産を有効活用することができない
土地や建物等の不動産の共有持分自体は価値のある財産になります。
したがって,そのような価値のある財産を取得するために,他の相続人に代償金を支払って共有持分を取得することが考えられます。
もっとも,代償取得の結果,土地や建物等の不動産の共有持分だけを保有していたとしても,不動産の潜在的な持分だけを保有していることになり全体の利用ができず利用が制約されることもあります。
例えば,土地の共有持分を有していたとしても,その土地上に他の共有者名義の建物が建てられ,被相続人以外の第三者が居住していた時は,土地を実際に利用することもできず土地の持分を有効に利用することは難しくなります。
共有持分のみを売却して代金を分ける方法による遺産分割も望ましくない
そこで,共有持分だけを売却することも考えますが,これも有効な活用方法とはいえません。
なぜならば,共有持分それ自体の売却自体は可能ですが,共有持分のみでは購入者も土地や建物等の不動産を利用をすることが難しくなるため,買取業者は相場よりも相当程度安い状態でしか買わないからです。
共有持分を共有持分のまま分割する方法による遺産分割も望ましくない
それならばと,土地や建物等の不動産の共有持分を更に法定相続割合で共有分割をすることも考えられますが,このような共有分割を行った場合,持分が細分化され更に関係当事者が増え困ることになります。
また,土地や建物等の不動産の共有持分を共有のまま分割することは結局何の解決にもならないため,解決の後回しということになります。
このように,遺産に共有持分が含まれる遺産分割の場合は,分割後に共有持分をどのように扱うかを踏まえて遺産分割を行う必要があります。
遺産に不動産共有持分が含まれるときは遺産分割後も見据える必要がある。
前述のとおり,土地や建物等の不動産の共有持分のままではこれを遺産分割によって取得しても,その後の利用や売却にも制約があることになります。
それでは,共有持分取得をしても全く意味が無いかというとそうではありません。
このようなときには,共有の土地や建物等の不動産を単独に不動産に戻す共有物分割という方法により解決をすることが可能です。
ただ,共有物分割請求を行う場合において,共有物分割がまとまらないときは,地方裁判所に対して共有物分割請求訴訟を提起しなければなりません。
では,遺産に共有持分が含まれているときには,家庭裁判所を利用して遺産分割を完了させた後,あらためて,地方裁判所に共有物分割請求訴訟を提起しなければいけないのでしょうか。
この点については,次のとおり,必ずしも上記手順によらずとも解決することができる場合があります。
遺産である共有不動産が相続人のみと共有の場合は遺産分割と同時解決できる
この場合は,遺産分割と同時に共有物分割を行うことによって解決をすることができます。
例えば,遺産分割により共有持分を取得する相続人が,共有している他の相続人が保有している固有の共有持分も併せて買い取るという方法です。
この方法によれば,遺産分割と共有物分割を併せて行うことによって一度で単独の所有権を取得することができます。
弊所でも遺産の中に共有持分が含まれる場合に,遺産分割調停において共有物分割を併せて行って解決を行った事例がございます。
遺産である共有不動産が相続人以外と共有の場合は事案に応じた解決をする
例えば,他の共有者が相続人の配偶者の場合や,被相続人の関連会社等の場合,または共有持分を購入した第三者の場合があります。
この場合は本来であれば,まずは遺産分割により土地や建物等の不動産の共有持分を整理した後に共有物分割を行うのが原則になります。
もっとも,遺産分割を挟まずにいきなり共有物分割請求ができないかというと必ずしもそうではありません。
平成25年11月29日最高裁判決では,遺産である土地や建物等の不動産の共有持分を,相続人の他,相続人が経営する会社が共有していた事案において,会社から相続人に対する共有物分割請求を認めています。
この事案においては,共有物分割請求の結果,相続人が経営する会社が遺産である共有持分を買い取り,相続人に対して代償金を支払う方法によって解決をしています。
その上で,その代償金を後の遺産分割により分割させる方法をとっております。
このように,相続人以外の第三者が共有持分を有している場合であっても,場合によっては,共有物分割をすることを検討することも考えられます。
終わりに
以上,相続した遺産に土地や建物の共有持分が存した場合の注意点と分割方法について解説を行いました。
土地や建物等の不動産の共有持分が遺産に含まれるときは,遺産分割に加えて共有物の処理も検討する必要があるため,通常の遺産分割よりも考えなければならない事項があります。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,相続した遺産に共有持分が含まれる相続問題をはじめ,相続問題や不動産問題を重点分野として扱っており,解決事例等も豊富にございます。
相続した遺産に土地や建物の共有持分が存した場合の相続問題にお悩みの方は,中野区で不動産無料相談対応の吉口総合法律事務所までお問い合わせください。
相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときに遺産分割を行う方法
被相続人の相続発生後に相続人間で遺産分割を行う必要があります。
その際に,何らかの理由で相続人の連絡先がわからず連絡が取れないということも珍しくありません。
それでは,相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときにどのように遺産分割を行えばよいでしょうか。
本コラムでは,相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときに遺産分割を行う方法について解説を行っていきます。
失踪者や行方が分からない者を外して遺産分割はできない
前提として,相続人の中で失踪者や行方が分からない者がいる場合,当該相続人を外して遺産分割を進めることはできないでしょうか。
その答えとしては,残念ながら,そのようなことはできないということになります。
遺産分割は相続人全員でこれを行う必要があるからです。
遺産分割を行うにあたって,相続人が一人でも足りていない場合は,遺産分割は成立していないことになってしまいます。
したがって,相続人の中に失踪者や行方が分からない者がいた場合は,当該相続人を探した上で,相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
失踪者や行方が分からない相続人を辿っていける場合
それでは,どのようにして相続人全員で遺産分割を行えばよいでしょうか。
まず,失踪者や行方が分からない相続人を辿ることになります。
この相続人をたどる方法ですが,失踪者や行方が分からない相続人の住民票や戸籍の附票を取得して住所地を探すことになります。
住民票や戸籍の附票は一定の親族であったり,利害関係を有する場合は取得が可能です。
遠方の自治体であっても,郵送による取り寄せが可能なので(但し,手数料は現金等ではなく,定額小為替で支払うことになります。),直接訪問をする必要もありません。
したがって,まずは住民票や戸籍の附票を取得すると良いでしょう。
もっとも,住民票や戸籍の附票の読み方がわかりづらく当該相続人の住所等を辿るのが難しい場合があります。
そのような場合は,役所の担当者に読み方等を確認するか,弁護士等の専門家に個別の案件依頼を通じて,これらの資料を取得してもらうのが良いでしょう。
最終的に住民票等により,失踪者や行方が分からない相続人現在の住所が確認できた場合は,当該相続人に対して手紙を送る等して連絡を試みると良いでしょう。
なお,そこに住んでいる可能性が高いが,当該相続人が連絡を拒絶している場合,このままでは遺産分割協議ができません。
そのような場合は,遺産分割調停等の申立てを検討する必要がありますが,その前に弁護士から書面を送ることにより連絡が可能となることもあります。
したがって,このような場合はお気軽に弁護士にご相談ください。
失踪者や行方が分からない相続人を辿っていける場合
前述のとおり住民票や戸籍の附票を取得して,失踪者や行方が分からない相続人住所が判明したが,その住所地には別の人物が居住しているような場合,または住民票上の現住所がわからない場合があります。
このような場合は,失踪者や行方が分からない相続人がどれくらいの期間行方不明になっているかによって,次のとおり対応が変わってきます。
失踪者や行方が分からない相続人が生死不明から相当程度経過している場合
生死不明から相続程度経過している場合は,家庭裁判所に対し失踪宣告の申立てを行うことを検討します。
具体的には,通常は生死が7年間明らかにならない場合は,失踪宣告の要件を充たすことになります。
失踪宣告がなされた場合は,失踪者や行方が分からない相続人は法律上死亡したとみなされることになります。
当該相続人が死亡したとみなされることにより,当該相続人の相続人が相続人の地位を取得することになります。
それによって,当該相続人以外の相続人のみで遺産分割が可能になります。
失踪者や行方が分からない相続人が生死不明から相当程度経過していない場合
生死不明から相続程度経過していない場合は,家庭裁判所に対し失踪宣告の申立てを行うことができません。
この場合は,家庭裁判所に対し不在者財産管理人の選任申立てと呼ばれる手続を申し立てることを検討します。
不在者財産管理人とは,簡単に言えば,行方不明者の財産を暫定的に管理する立場の者をいいます。
この不在者財産管理人が選任されることにより,不在者財産管理人が失踪者や行方が分からない相続人の代わりに遺産分割を行うことになります。
不在者財産管理人が選任された場合の遺産分割の注意点
仮に不在者財産管理人が選任されたとしても,それで容易に遺産分割ができるというわけではありません。
というのも,不在者財産管理人は,あくまで保存行為と呼ばれる不在者の財産の維持に必要な行為しかできません。
そして,遺産分割は,上記保存行為にはあたらないため,不在者財産管理人は原則として遺産分割をなしえないことになります。
もっとも,不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得れば遺産分割協議も可能となります。
その場合であっても,裁判所から許可を得るためには,遺産分割を行う必要性や相当性という要件を充たす必要があることになります。
不在者財産管理人が選任された場合において,他の相続人はこれらの制約があることを踏まえて遺産分割協議を進めていかなければならないことになります。
終わりに
以上,相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときに遺産分割を行う方法について解説を行いました。
相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときであっても遺産分割協議をあきらめる必要はありません。
もっとも,その場合の手続は通常とは異なるため,そのことを十分に理解する必要があります。
特に,不在者財産管理人が選任された場合における遺産分割については前述のとおり注意が必要です。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では, 相続人に失踪者や行方が分からない者がいるときの遺産分割をはじめとする相続問題を得意分野としています。
相続問題にお困りの方は吉口総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
遺産分割後・遺言執行後に預金の使い込みがわかった場合の返還請求の可否
東京都中野区所在の相続相談対応の吉口総合法律事務所では,相続のご相談のうち,預金の使い込みに関するご相談も広くいただいております。
通常,預金の使い込みは遺産分割前に発覚することが多く,遺産分割と併せてまたは独立して問題となることが多いです。
なぜならば,遺産分割をするに当たり,遺産預金の残高を調べたところ異様に少なかったため,預金の履歴を調べたところ・・・等の経緯から使い込みの事実が明らかになることが多いからです。
もっとも,ご相談者様の中には,遺産分割が成立するまで預金の使い込みがされたことに気付かず,遺産分割協議成立後に使い込みに気付く方もいらっしゃいます。
また,遺言書が存在したのでそれに従って遺産が分けられたが,遺言書に従って分割がなされた後に使い込みがされたことが明らかになることもあります。
本ページでは,遺産分割成立後または遺言執行後に使い込みが発見された場合に他の相続人は使い込みに対する返還請求ができるかについて解説を行います。
遺産分割協議成立後であっても他の相続人が返還請求できるケースは多い
遺産分割成立を理由に返還請求ができない旨の反論は通りづらい
遺産分割協議成立後に使い込みをしたと疑われる者(通常は他の相続人が多いですので,ここでは相続人とします。)に対して返還請求を行った場合,当該相続人からは次のような反論がなされることが想定できます。
すなわち,当該相続人からは,遺産分割協議の成立によって使い込みの問題も併せて解決したため返還請求はできないという反論です。
このような反論は法的には,相続人間において清算条項(当事者間に請求権が存在しないことを確認する条項)が存在する旨の反論になります。
しかしながら,このような反論は簡単には認められません。
まず,遺産分割協議書においてこのような反論を裏付けるほどの明示的な包括的な清算条項が設けられることは必ずしも多くはありません。
次に,一見清算条項(のように見える条項)が存在したとしても,遺産分割は現存する未分割の遺産を分割する手続であるのに対し,使い込みの問題は相続と同時に相続割合で自動的に分割されるものであるため,遺産分割と使い込みは別の手続で扱われる問題です。
したがって,遺産分割が成立したからといって,使い込みも直ちに解決済みとは言えないことになります。
また,仮に遺産分割協議書において清算条項が存在したとしても,使い込みの問題は遺産分割協議書に規定された清算条項の対象外と解することも可能だからです。
特に,遺産分割の際に使い込みの問題が話題になっていなかったのであれば,当事者の合理的意思として,使い込みに関する問題は清算の対象に含まれないと解していたとされやすいといえます。
以上のとおり,遺産分割が完了していたからといって,必ずしも相続人は使い込みに対する返還請求ができないということにはなりません。
遺産分割成立後に使い込みに対する返還請求がしづらくなるケースもある
もっとも,遺産分割が成立している場合に使い込みに対する返還請求が認められづらくなるケースもあるといえます。
例えば,遺産分割協議書の中に,相続人間に一切の債権債務が無いことを確認する等の包括的な清算条項がある場合や,使い込みについて話題になった上で,今後双方請求しないという趣旨で清算条項が設定された場合です。
このような場合も必ず使い込みに対する返還請求ができなくなるわけではありませんが,文言上は返還請求権も清算するようにも読めますので,返還請求ができなくなってしまう可能性もあります。
これらについては,遺産分割協議書の作成経緯等から判断する必要がありますので,不安がある場合は弁護士までお問い合わせください。
遺言執行後に使い込みが発見された場合も返還請求できることが多い
遺言書が作成されていた場合において,遺産が遺言書に従って分けられた後に使い込みが発覚したときがあります。
このときは,遺留分の問題となるか通常の使い込みと同様に考えるか,これらは遺言書の文言にしたがって判断することになります。
遺留分の問題として使い込みに対する請求を行う場合
前者の遺留分の問題となる場合としては,例えば遺言書において,使い込みをしたと疑われる相続人に対し「その他全ての財産を相続させる」旨規定されている場合があげられます。
この場合は,遺言者の使い込みをした相続人に対する返還請求権(不当利得返還請求)も遺産となり,それも使い込みをした相続人が相続したと解されることになります。
そうすると,遺留分の計算の基礎となる遺産額に上記不当利得返還請求権が加わることになり,それによって遺留分侵害額が増えるか,または遺留分侵害額が新たに発生することになります。
通常の使い込みの問題として返還請求を行う場合
他方で,後者の通常の使い込みの問題となるケースとしては,遺言書の中で上記の「その他すべての財産を相続させる」等の文言が無いケースになります。
この場合は,使い込みに対する返還請求権(不当利得返還請求権)は遺言書の中で規定されていないことになるため,遺言書が無い状態と同じになります。
したがって,この場合は,他の相続人は遺留分ではなく不当利得返還請求権等を行使することになることになります。
もっとも,遺言書に上記文言が無かったとしても,例えば,使い込みを行った相続人に使い込みの対象となった預貯金口座を相続させる旨遺言に規定されていた場合は,遺留分の問題となる可能性もあります。
なぜならば,この場合は遺言書の解釈の問題となるところ,遺言者は使い込みを行った者に当該預貯金を取得させようと考えていた以上,当該預貯金からの引き出しに対する不当利得返還請求権も使い込みを行った者に相続させる意思を有していたと解釈することも考えられるからです。
いずれにしても,使い込みがなされた場合でかつ遺言書が存する場合は,遺言書の文言を全体から考察する等してどのような請求をすべきかを検討することになります。
終わりに
以上,預金の使い込みが遺産分割後または遺言執行後にわかった場合の返還請求の可否について解説を行いました。
解説のとおり,遺産分割後または遺言執行後に使い込みが判明した場合であっても他の相続人は返還請求をすることを直ちにあきらめる必要はありません。
もっとも,遺産分割後または遺言執行が終わった後の請求は,使い込みを行ったと疑われる者から反論がなされる可能性があるため,反論を踏まえた対応を検討する必要があります。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,預貯金の使い込みの問題を含む相続問題を重点分野として取り扱っております。
預貯金の使い込みの問題を含む相続問題についてお困りの方は東京都中野区所在の吉口総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
認知症の親や兄弟が作成した遺言書を無効にしたいときはどうしたらよいか
昨今,遺言書作成の必要性が広く認識されるようになり,それによって遺言書の作成件数も増加しているようです。
他方で,被相続人が遺言書を作成できない状態であるにもかかわらず,実質的に遺言者ではなく他の相続人が主導して遺言書を書かせてしまうような事態も見受けられます。
例えば,親が認知症であるにもかかわらず,子供の一人が認知症の親に働きかけてその子供に有利な内容の遺言書を作成させるようなケースです。
それでは,被相続人の認知状態が認知症等により低下していたにもかかわらず遺言書が作成された場合,残された他の相続人は遺言書の無効を主張することができるのでしょうか。
本コラムでは,認知症の親や兄弟が作成した遺言書を無効にしたいときはどうしたらよいかについて解説を行います。
どのような場合に遺言書は無効になるのか
遺言能力を欠く場合には遺言書は無効になる
遺言書の種類によって遺言書の無効事由は異なりますが,一番多く争われる無効事由は遺言者が遺言書を作成した際に遺言能力が欠けているという点だと思います。
遺言能力については,民法で以下のように規定されています。
民法963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
上記規定では,遺言書作成にあたって遺言者が遺言能力を備えていることが必要になることを定めております。
それでは,どのような場合に遺言能力が無いと判断されるのでしょうか。
この点について誤解を恐れずに言えば,遺言能力が否定される典型例としては,複雑な内容の遺言書が残されているところ,(認知症等により)認知能力が極めて低下しており当該遺言の内容を把握できない場合には遺言能力は否定されるといえます。
どのような事情があれば遺言能力が存在しないことを理由に遺言書は無効になりやすいか
遺言無効を争う前提として,どのような事情があれば遺言書は無効になりやすいのでしょうか。
この点については,まずは遺言者の遺言書作成時の認知状態が著しく低下しているという事情があれば遺言能力を否定する重要な要素になると言えます。
加えて,認知状態だけでなく,遺言書の種類や遺言書の複雑性,従前の遺言者の意向と遺言書の整合性や遺言内容の不合理性等も遺言書が無効になる事情になります。
具体的には,一般的に自筆証書遺言の場合は,専門家である公証人が関与していないため相対的に無効になりやすいといえます。
また,複雑な内容の遺言書であればそれだけ遺言者が内容を理解することが困難になるため無効になりやすくなりますし,従前の遺言者の意向と不整合でありその内容も不合理であれば,遺言者の判断能力が低下していたといいやすくなります。
これらの事情を複合的に検討した結果,遺言能力が欠けているとして,遺言無効になりえます。
認知症の診断や症状がある際に作成された遺言書は直ちに無効か
前述のとおり,遺言書の効力を判断するに当たっては遺言者の認知状態が重要な要素になります。
それでは遺言者に認知症の診断や症状があれば遺言書は直ちに無効になるのでしょうか。
この答えは,先ほど典型例としてあげた遺言能力が否定される事例を確認すればわかるとおり,認知症があっても遺言書は直ちに無効になるわけではないというものになります。
認知症であったといっても,認知症の症状の重さによって遺言書の作成に影響を受ける範囲や程度も異なります。
また,認知症の種類にもアルツハイマー型認知症や脳血管型認知症,レビー小体型認知症・・・等あり,それぞれの認知症の種類によって症状や進行具合も変わってきます。
したがって,認知症があるからと言って直ちに遺言書が無効になるとはいえません。
もっとも,症状や重さによっては無効になるので,遺言書作成前に症状等を確認する必要が生じます。
どの程度の認知症の症状があれば遺言書は無効になりやすいか
それではどのような認知症の症状があれば遺言書は無効になりやすいでしょうか。
認知症には,中核症状と呼ばれる認知症の結果脳に影響が生じることによって発生する症状があります。具体的には記憶障害や見当識障害(時間や場所等がわからなくなる)理解判断力の障害です。
これらの症状が生じており,その程度も重度である場合は遺言書は無効になりやすいといえます。
他方で,認知症には周辺症状と呼ばれる中核症状に基づき実際に生活で発生している二次的な症状があります。具体的には,徘徊やせん妄,失禁等があげられます。
周辺症状をもって遺言能力を有していない旨の主張がなされることも多いですが,より重要なのは周辺症状ではなく中核症状であるのでそれを意識する必要があります。
中核症状の有無や程度については,カルテやMRI等の脳画像,看護記録,介護認定資料(認定調査票や主治医意見書)や介護施設の記録等から確認または立証していくことになります。
なお,認知症の判断をするにあたっては,長谷川式認知症スケール(HDS-R)と呼ばれる認知症の判断テストがあります。
この結果は必ずしも認知症の重さとは連動していないとされていますが,裁判においてはその点数が重要視される傾向もありますので,その点数を確認する必要があります。
20点以下の場合は認知症と判断されますが,一般論として言えば,1ケタ台~10点台前半である場合は無効になりやすくなるといえます。
遺言書の無効を主張するためにはどのような手続をとればよいか
それでは,遺言書の内容やカルテ等の資料を確認した結果,遺言書の無効を主張できそうな場合には具体的にどのように手続を進めるべきでしょうか。
この場合は,遺言無効確認調停及び遺言無効確認訴訟を提起して遺言書の無効を主張していくことになります。
認知症等を理由に遺言書の無効が裁判所に認められた場合は,別の遺言書が無い限り法定相続分にしたがって遺産分割を行うことになります。
なお,遺言無効確認事件については,訴訟の前に調停を経る必要があるという調停前置と呼ばれる制度がとられておりますが,必ずしも調停を経なければ裁判ができないというわけではないため,事案に応じて訴訟提起をすぐに行うこともあります。
終わりに
以上,認知症の親や兄弟が作成した遺言書を無効にしたいときはどうしたらよいかについて解説を行いました。
遺言書作成時に認知症があったことを理由に遺言書の効力を争う場合は,まずは認知症に関する医学的な部分を理解する必要があります。
そして,その点の理解とともに,裁判所にわかりやすく,かつ,裁判所が重視するポイントを踏まえて遺言書の無効を争う必要があります。
したがって,遺言書の無効を争うにあたっては,これらの点を理解した相続問題に強い弁護士に依頼をする必要性が大きいといえます。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,遺言無効確認事件をはじめとする相続事件を注力分野として扱っており,実際にも多数のご相談及びご依頼をいただいております。
遺言無効確認事件をはじめとする相続事件をご依頼の方は,東京都中野区所在の吉口総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
相続財産(遺産)に借地権付建物が含まれる場合に知っておくべき基礎知識と注意点
中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所では,遺産相続に関するご相談及びご依頼をいただいておりますが,その中には,借地権付建物に関する遺産分割や遺留分に関するご相談があります。
借地権付建物が遺産に含まれる場合は,通常の遺産分割とは異なった配慮をしなければならないため注意が必要です。
本コラムでは,借地権付建物の相続において,知っておいた方が良い基礎知識や借地権付建物の遺産分割の注意点について解説を行います。
▼借地権付建物の売却に関してご不明点がある方は,こちらをご参照ください。
借地権付建物は相続の対象となる遺産になるか
被相続人が借地権付建物を所有したまま相続が発生した場合,建物のみならず借地権も遺産になります。
「建物については相続の対象になると思っていたが,借地権が対象になるとは思わなかった」とおっしゃる方もいますが,借地権と建物のそれぞれが相続の対象になります。
むしろ,後述する通り,建物よりも借地権の方が価値が高いことが多いため,借地権が相続の対象になることは覚えておく必要があります。
なお,借地権が複数名による共有状態(準共有といいます。)になっている場合もありますが,借地権が準共有の場合も,通常の場合と同様に相続の対象となる遺産になります。
借地権付建物を相続した場合地主に対して譲渡承諾料を支払う必要はあるか
先に結論を言いますと,借地権付建物を相続したとしても,地主から譲渡の承諾を得る必要はないため,地主に対する譲渡承諾料の支払も当然不要です。
後述するとおり借地権の譲渡をするためには地主の承諾が必要であり,借地権の譲渡をするときは通常地主に対して譲渡承諾料を支払います。
しかし,相続の場合は,相続の結果借地権権が被相続人から相続人に移転しますが,それは相続人が被相続人の地位をそのまま相続したにすぎないため,譲渡があったわけではありません。
したがって,地主の承諾は不要です。
相続発生後,「地主から譲渡承諾料の請求を受けたがどうしたらよいか」というご相談をいただくこともありますが,譲渡承諾料を支払う必要はないので支払を拒否しても問題ありません。
但し,遺贈があった場合は地主の承諾が必要になりますので注意が必要です。
例えば,被相続人が遺言書を作成し,遺言書において「借地権付建物を~に遺贈する」と記載されていた場合は,受遺者は地主の承諾を得る必要があります。
受遺者が地主に承諾を求めたにもかかわらず,地主が承諾をしない場合は,裁判所の手続を利用して借地権譲渡許可を受けることになります。
この場合は遺贈後に譲渡承諾を得ることになりますが,東京高裁昭和55年2月13日決定は,遺贈後であっても建物の移転登記又は引渡しを受けていないことを理由に,借地権譲渡許可の申立ては適法としています。
借地権の評価額は時価で算定する
借地権が相続の対象である遺産の場合,借地権を時価で評価します。
不動産の評価額は固定資産評価額や路線価等様々な評価方法が存在しますが,遺産分割の際は時価で評価します。
この時価の算定方法は様々なものがありますが,更地価格を算定した上で更地価格に借地権割合を乗じて算出することが一般的です。
更地価格の評価は,公示地価や取引事例を比較した上で算出することが多いです。そして,借地権割合は路線価図に記載があるため,路線価図記載の借地権割合を乗じて算出します。
具体的には,相続の対象となる借地権付建物の路線価図を確認し,金額とA~Gまでの記号を確認し,路線価図右上のA~Gまでの割合を更地価格に乗じます。
例えば,更地価格が1000万円であり,相続の対象となる路線価図にDと記載がある場合は,借地権割合は60%ですので,借地権の評価額は600万円になります。
但し,注意が必要なのは,あくまでそれは理屈上の評価額であり,実際にその金額で売却できるとは限らないということです。
借地権付建物の場合は,売却をするためには地主の承諾が必要になります。そして,融資を受けるときにも地主の協力が必要になりますので,地主の協力が得られない場合は買い手が限られます。
このような場合は,売却額をディスカウントせざるを得ないケースもでてきますので注意が必要です。
借地権付建物の分割方法
借地権権付建物をはじめとする遺産の分割方法には,現物分割や代償分割等様々の種類があります。
もっとも,借地権付建物の分割は,代償分割または換価分割を選択することが多いです。
借地権付建物の代償分割とは,相続人の一人が借地権付建物を単独取得し,他方の相続人に対して代償金を支払う分割方法であり,換価分割とは,借地権付建物を売却(競売)し,売却代金を相続割合に応じて分割する分割方法です。
代償分割の場合は地主の承諾は不要ですが,換価分割の場合は地主の承諾が必要になります。
借地権付建物の場合は,通常の不動産よりも地代や更新料等のランニングコストが発生するため売却することが多いですが,地主が譲渡承諾をしないケースや譲渡承諾料の折り合いがつかないケースもでてきます。
そのような場合の対処法はこちらのページで解説をしていますのでご確認ください。
なお,遺産分割協議がまとまらない場合で換価分割となった場合は最終的には競売によって売却されることになります。
この場合,相続人にはもはや関係ありませんが,競売で競落された場合であっても買受人は地主の承諾を得る必要があります。
借地権付建物の相続の際の注意点
借地権付建物の相続の際の注意点としては,相続発生後,相続人全員が地代の支払義務を負うという事です。
相続人は自らの相続割合に応じて遺産及び債務を相続しますが,地代の支払債務は不可分債務と呼ばれ,全員が全額を支払う義務を負います。
そして,地代の不払いは賃貸借契約の解除事由になりますので,借地権付建物の遺産分割が未了だからといって滞納をしないようにする必要があります。
終わりに
以上,相続財産に借地権付建物が含まれる場合に知っておくべき基礎知識と注意点について解説を致しました。
借地権付建物の相続の場合,相続人だけではなく地主との関係も考えなければいけないため,通常の相続とは異なった考慮をする必要があります。
そして,借地権付建物を仮に換価分割をする際には,売却に苦労することがあるため,借地権付建物の相続に伴う売却に慣れている弁護士に依頼することが良いと思います。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,借地権付建物の相続を含む遺産相続分野を重点分野としており,また,遺産分割等のノウハウや経験がございます。
借地権付建物の相続に関しご不明点がございましたら,中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所までご相談ください。
存命中の親の預金が現在使い込まれているときの防ぎ方と解決方法
中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所で相続のよくいただくご相談内容としては,相続預金の無断引き出し・使い込みのご相談です。
これと似た類型のご相談としては,親族が生前・存命中における預貯金の無断引き出し・使い込みの問題があります。
具体的には,「自分の息子に預貯金の管理を委ねたが,無断で引き出されているようなので預金の返還請求をしたい」,「自分の親が弟に預貯金の管理を依頼したようだが,親の知らない間に預貯金が引き出されているようであり,何とかしたい。」といったご相談になります。
このように,親族の生前・存命中に預貯金が無断で引き出されて使い込まれていることが疑われる場合は,どのように対処すればよいでしょうか。
中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所作成の本コラムでは,親族の生前・存命中に預貯金が無断で引き出されて使い込まれている場合の対処法について解説を行います。
▼相続が既に発生している場合における預金の使い込みに関してはこちらのページをご参照ください。
▼預金の使い込みの解決事例はこちらのページをご参照ください。
すぐにしなくてはならないことは,これ以上預金が引き出されることを防ぐこと
親族の生前・存命中に預金が無断で引き出され使い込まれていることが判明した場合は,まずはこれ以上預金が引き出されることを防ぐ必要があります。
具体的には,預金がこれ以上無断で引き出されないように,当該親族が銀行等の金融機関を訪問した上で届出を行います。
親族の判断能力が保たれている場合は,金融機関に相談・届出をすれば,これ以上の引き出しができないよう対処ができます。
他方で,仮に親族の判断能力に疑義が生じている状態であれば,当該親族に対する後見開始の申立てを行うことを検討します。
このように,無断で引き出され使い込まれた預貯金の返還請求を行う前に,まずはこれ以上被害が広がることを防ぐことをしましょう。
引き出された預金額の確認を行う
これ以上の預金の無断引き出し・使い込みが防ぐことができた後は,無断で引き出された預貯金額がいくらであるかを確認します。
この確認は,親族が引き出された預金口座の通帳を保管していれば通帳を確認し,通帳の保管をしていない場合は金融機関を訪問して取引履歴を取得します。
取引履歴等を確認し,身に覚えのない引出をピックアップすることによって,無断で引き出され使い込まれた可能性がある金額が徐々に明らかになります。
親の預金を引き出している者に対して引き出された預金の返還請求を行う
預貯金が無断引き出された上で使い込みがされた場合は,引き出し・使い込みを行った者に対して返還請求をすることができます。
この返還請求を行う法律上の根拠としては,不当利得返還請求,不法行為に基づく損害賠償請求,(財産管理の委託をしていた場合は)委任契約に基づく受取物返還請求等があげられます。
これらの請求をするために,預金を無断で引き出した者を被告として,地方裁判所に対して民事訴訟を提起することになります。
使い込まれた預金の返還請求を行うために,家庭裁判所の調停を利用することもありえますが,解決までのスピードや実効性を考えると,地方裁判所に対して提起した方がより効果的です。
なお,解決までに要する時間ですが,預金を無断で引き出した者の反論の内容にもよりますが,概ね8カ月から12ヵ月程度が多いように思われます。
親族に認知症等の症状がなく意思疎通が可能な場合
通常の相続における預金の使い込み案件の場合は相続人を原告として,預金を無断で引き出し使い込みを行った者に対して返還請求を行います。
これに対し,存命中の親族の預貯金が無断で引き出され・使い込まれた場合は,使い込みがなされた親族が原告となって使い込みを行った者に対して返還請求を行うことになります。
親族に認知症等の症状がある場合
親族が存命中ではあるものの認知症等の症状がある場合もあります。
この場合,認知症と言っても症状の軽重がありますので,認知症の症状があるからといって直ちに訴訟提起ができないわけではありません。
もっとも,認知症が重い場合は訴訟の遂行が難しくなるため,後見開始の申立てを行うことになります。
そして,選任された後見人の判断で預貯金を無断で引き出した者に対する返還請求を行うか否かが決まることになります。
預金を無断で引き出したことが疑われる側からなされるよくある反論
預貯金を無断で引出・使い込んだことを理由とする返還請求を行った場合であっても,これに対する反論がなされることがよくあります。
具体的には,「預金はもらったものである」,「預かっているだけであるから返すつもりである」,「引出金は許可を得て借りたものである」等の反論がされることがあります。
これらの反論がなされた場合は,それらの法律上の位置づけを理解した上で,再反論を行い返還請求を行うことになります。
終わりに
以上,親族生前中・存命中に無断で預金が引き出され・使い込まれた場合における対処方法について解説を行いました。
親族生前中・存命中に預貯金が無断で引き出され・使い込まれた場合における返還請求は,相続した預金が使い込まれた場合における返還請求と基本的には似た法律構成にはなります。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,預金の使い込みを始めとする相続問題を多数扱っております。
預金の使い込みを含む相続問題にお困りの方は,下記お問い合わせフォーム等から中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所までお問い合わせください。
障害ある子供に親の死後に財産管理をする方法
障害のある子供の財産管理のために成年後見を利用する方法
成年後見制度のメリット
成年後見制度のデメリット
民法第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については・・・・
任意後見契約を利用した障害のある子の財産管理を行なう他の方法
家族信託を利用して障害のある子供の財産管理を行なう方法
次に,信託を利用して障害のある子供のために財産を信託するという方法があります。
信託とは,大まかに言って,財産管理を依頼する委託者,財産管理を行なう受託者,財産管理の利益を受ける受益者が登場する制度になります。
例えば,親が障害のある子供のために信頼できる親族に財産管理を委ねた場合,親が委託者,信頼できる親族が受託者,障害のある子供が受益者ということになります。
家族信託制度を利用することのメリット
家族信託制度を利用することのデメリット
終わりに
以上,親の死後に障害ある子供の財産管理をする方法について解説を行いました。
通常の遺言書の作成時もそうですが,ご自身に元気がある時にはなかなか将来のための措置を採ることに消極的になってしまいます。
もっとも,これらの将来のための措置は早く行うことにデメリットは無いといえますので,思いついたときに行動されることをお勧めしています。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,今回ご紹介した親族に障害がある子がいる場合に限らず,信託,遺言書の作成,後見,任意後見を始めとした相続・将来の財産承継に関する知識・ノウハウを多数有しています。
本記事をご覧になり,もしご不明な点がございましたら,中野区で相続無料相談対応の吉口総合法律事務所までお気軽にご相談ください。
知らないうちに(勝手に)養子縁組がされた場合にどのように争えばよいか
中野区で相続無料相談対応の吉口総合法律事務所では,
「親族が亡くなったので,遺産分割をするために戸籍を調べたら知らないうちに養子縁組がなされていた。」
との相続に関連する養子縁組に関するご相談をいただくことがよくございます。
このような事態が生じることは珍しくなく,相続のご相談に関連して弊所にご相談にいらっしゃる方も少なくありません。
それでは,このように知らないうち(勝手)に養子縁組がなされた場合,相続にどのように影響があるのでしょうか。
また,このように知らないうちに養子縁組がなされそれが納得できない場合,どのように争っていけばよいのでしょうか。
中野区で相続無料相談対応の吉口総合法律事務所作成の本コラムでは,知らないうちに養子縁組がなされる背景や,養子縁組の効力の争い方について解説を行います。
相続対策のために養子縁組が利用される背景
養子縁組を行うことによって,養親と養子との間に法律上の親子関係が生じます。
そして,法律上の親子関係が生じると,以下のような効果が生じるため,相続にあたり養子縁組が利用されることがあります。
養子縁組によって法定相続人となるべき人が変わる
相続法では,配偶者の他に相続人となる親族の順番が決められています。
配偶者は必ず相続人になりますが,それ以外には
①子供
②親
③兄弟
の順番でこれらの者が相続人になります。
配偶者がいない場合は,これらの者のみが相続人になります。
例えば,独身で子供がおらず,また親がすでに亡くなっていた被相続人の場合は,被相続人の兄弟が相続人になります。
しかし,例えば上記被相続人と第三者が養子縁組をした場合,当該第三者は当該配偶者の子供になるため,被相続人の兄弟は相続人ではなくなります。
したがって,当該第三者が遺産をすべて取得することになります。
養子縁組によって法定相続割合が変わる
例えば,被相続人の配偶者が死亡して,子供が三人いる場合,子供は各3分の1の割合で相続分を有することになります。
しかし,例えば,被相続人が長男の子供(被相続人の孫)と養子縁組をした場合,被相続人には子が4人いることになります。
したがって,養子縁組をすることによって,長男とその子供は各4分の1(長男側は合計2分の1),その他の被相続人の子は各4分の1のみ相続できることになります。
養子縁組によって遺留分割合が変わる
養子縁組をすることによって法定相続割合が変わることは既に述べた通りです。
そして,養子縁組をした場合は遺留分割合も変わることもあります。
遺留分割合は,総体的遺留分に法定相続割合を乗じて算出されます。
例えば,子供が2人いる場合は,各子どもの遺留分割合は,遺産の4分の1(総体的遺留分割合×法定相続割合)になります。
このように,法定相続割合と遺留分が関連するため,法定相続割合が変わる結果,遺留分割合も変わってくるのです。
例えば,子供2人の相続の場合において,被相続人が養子縁組を行った場合,子供が3人になるので,各相続人の遺留分割合は各6分の1になります。
上記の通り,養子縁組によって遺留分割合を減らすことができるため,遺留分対策のために養子縁組を利用することがあります。
養子縁組によって相続税の基礎控除が変わる
相続税には基礎控除というものがあり,基礎控除の範囲内であれば相続税は発生しません。
基礎控除額は,3000万円+相続人の数×600万円になります。
また,生命保険についても非課税となる限度額が
500万円×相続人の数と決まっています。
養子縁組がなされた場合,法定相続人の数が増えることになりますので,この基礎控除額や非課税限度額が増えることになります。
但し,相続税法上,養子の数は,実子がいる場合は1名まで,実子がいない場合は2名までが決められていますので,この点に注意が必要です。
知らない間(勝手)に出された養子縁組の効力を争うためにはどうしたらよいか
知らない間(勝手)に養子縁組がなされる背景は以上の通りですが,それでは知らない間に出された養子縁組の効力を争うためにはどのようにすればよいのでしょうか。
まずは,その前提として,養子縁組が無効になるのはどのような場合でしょうか。
養子縁組が無効になるのはどのような場合か
民法では,養子縁組が無効になる場合について規定しています。民法802条によれば以下の通りです。
民法第802条
縁組は,次に掲げる場合に限り,無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし,その届出が第789条において準用する第739条2項に定める方式を欠くだけであるときは,縁組は,そのためにその効力を妨げられない。
つまり,当事者間に養子縁組をする意思が無い場合,または,養子縁組の届出をする意思が無い場合に養子縁組が無効になります。
例えば,養子縁組をするつもりが無いのに勝手に出されてしまう場合や,養子縁組をする意思はあるものの,まだ届出をするつもりはなかったのに勝手に出されてしまう場合がこれらに該当します。
なお,勝手に養親組届が提出されるのかと疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが,勝手に養子縁組届を出すことはありえます。
なぜならば,戸籍の窓口ではその養子縁組が真意に沿ってなされたかを審査することはできないからです。
養子縁組を争うためにはどのような手続をとるべきか
それでは,縁組意思または届出意思が欠けていることを理由に養子縁組を争う場合,どのような手続をとるのでしょうか。
養子縁組の効力を争う場合は,家庭裁判所に対し,調停の申立て,または,人事訴訟を提起する必要があります。
この調停と訴訟の関係ですが,家事事件手続法では,調停前置と呼ばれる訴訟よりも先に調停を行わないとならないという仕組みがあるので,人事訴訟に先立って調停を行わなければいけません。
もっとも,養親または養子が死亡している場合は,調停後になされる合意に相当する審判ができないため(家事事件手続法277条第1項),調停を行う実益がありません。
そのため,養親又は養子が死亡している場合は,調停の申立てをせずに訴訟提起を行うことになります。
養子縁組無効確認裁判手続後の流れ及び注意点
家庭裁判所に対し訴訟提起を行った後,当事者間で,養子縁組が無効であったか否かについて争っていくことになります。
この場合の注意点としては,離婚等の裁判であれば和解が可能になりますが,養子縁組の無効を前提とする場合,裁判を通じた和解による解決ができないという点です。
訴訟手続をするにあたっては,上記の点を踏まえて手続を進めていく必要があります。
養子縁組の効力を争うための証拠収集の方法
最後に,養子縁組の無効を争っていくためには,どのような証拠を収集すべきでしょうか。
この点について,まずは,戸籍届書の記載事項証明書を取得する必要があります。戸籍謄本とは異なり,記載事項証明書には養親の署名や押印欄がありますので,まずは資料を取り寄せて,本人の署名・押印であるかを確認します。
その上で,養親のカルテ,介護記録,介護認定資料等の医療情報を収集します。カルテ等を確認した上で,養親が養子縁組の内容を理解できる状態であったかという点の分析を行います。
更に,養親と養子の関係がわかる資料を取得します。養子縁組を行うにあたっては,養親と養子の関係が重要になりますので,当事者の関係の親疎も確認しなければいけません。
これらの資料を基に,養親縁組の効力を争っていくことになります。
終わりに
以上,知らない間(勝手)に,養子縁組がなされた場合の対処方法について解説を行いました。
養子縁組の無効を争うケースにおいては,どのような手続をとるかという点や,縁組の無効を争うためのノウハウが重要になってきます。
弊所では,実際にご依頼後に養子縁組無効確認訴訟提起を行い,その結果訴訟提起前よりもご依頼者様に有利な内容で問題が解決した実績もございます。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,養子縁組の無効を含む相続分野を重点分野としております。
養子縁組の効力についてご不明点等ございましたら中野区所在の吉口総合法律事務所までお気軽にご連絡ください。
遺産預金の使い込みがある場合における相手方の反論と返還請求の可否
中野区で相続無料法律相談対応の吉口総合法律事務所では,相続に関するご相談を多数受けております。
その中でもご相談内容として多いものは,”遺産である預金の無断引き出し・使い込み”の問題です。
被相続人である親や兄弟が亡くなったため,預金残高を確認したところ想定以上に預金が少なかったため,「遺産である預金が引き出されたのではないか・・・?」と考えるに至ることが多いようです。
今回のコラムでは,遺産である預金が無断で引き出された(使い込まれた)場合において,遺産である預金を使い込まれた相続人は使い込んだ者に対して返還請求をすることができるか,そして,返還請求をするためにはどのような準備をすればよいか等について弁護士が解説を行います。
▼遺産である預貯金の使い込みの問題の解決事例は,こちらをご参照ください。
▼ご親族が生存・存命中の使い込みの問題については,こちらをご参照ください。
引き出された預金の返還請求が認められるか否かの判断要素
まず,前提として,被相続人である親や兄弟の遺産である預金が多数引き出されている場合において,他の相続人は遺産である預金を引き出した者に対して返還請求をすることができるのでしょうか。
この点についての回答は,「遺産である預金が無断で引き出された(使い込まれた)場合は,他の相続人は引き出したものに対し返還請求ができる。」というものになります。
民法上,不当利得返還請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権という権利が存在するため,相続人は同請求権に基づいて,遺産である預金を無断で引き出した者に対し,無断で引き出された(使い込まれた)預金の返還を求めることができます。
それでは,どのような事情が存在すれば,他の相続人は無断で引き出された(使い込まれた)預金の返還請求を行うことができるのでしょうか。
この点については,以下の通りになります。
被相続人である親や兄弟死亡前における預金の使い込み(使い込み)について
遺産である預金の無断引き出し・使い込みは,死亡前になされるパターンと死亡後になされるパターンが存在します。
死亡前における引出が,無断引き出し・使い込みにあたるというためには,「預金の引き出しが,被相続人である親や兄弟の意思に反するものである」と言えなければいけません。
そして,これは,遺産である預金を引き出された側が主張・立証する必要があります。つまり,仮に遺産である預金の引き出しが,被相続人である親や兄弟の意思に反することを立証できなければ,いかに疑わしい事情が存在したとしても,遺産である預金を引き出された(使い込まれた)と主張する側の返還請求が認められないことになります。
ただ,通常は被相続人である親や兄弟の意思が明確にわかる資料は存在しないことが多いです。
そのため,預金の引出頻度や,引き出された金額・時期,被相続人と引き出した者との関係,被相続人である親や兄弟の当時の身体状態・認知状態,被相続人の生活状況,相手方の使途の説明内容等の要素から,被相続人である親や兄弟の意思を推認していくことになります。
例えば,父親が寝たきりの重度の認知症の状態であり,施設に入所していた中,遺産である預金から多額の金銭が引き出された場合,お父様は当該出金を認識できず,また,通常高額な金銭を支出する必要性が乏しいため,「被相続人である親や兄弟の意思に反していた」と認定される可能性が高いと言えるでしょう。
また,例えば,母親が死亡する直前に,遺産である預金から多額の金銭が引き出されていた場合,このような場合もお母様が金銭を必要とする事情は通常ないことから,「被相続人である親や兄弟の意思に反していた」と認定される可能性が高いと言えるでしょう。
上記のような事例であれば比較的判断がつきやすいですが,判断が難しい事案は多数ありますので,早期に弁護士にご相談をいただけますと今後の見通しを説明しやすくなります。
被相続人である親や兄弟死亡後における預金の使い込み(使い込み)について
上記とは異なり,遺産である預金の無断引き出し・使い込みが死亡後になされるパターンも存在します。
このようなケースでは,既に被相続人である親や兄弟が亡くなっていることから,預金の無断引き出し・使い込みにあたるといえるためには,「預金の引き出しが相続人の意思に反するものである」と言えなければなりません。
この場合は,死亡前の引き出しとは異なり,被相続人ではなく,相続人の意思に反する引出か否かが基準になりますので争い方の構成が変わることになります。
遺産である預金が,無断で引き出されているか(使い込まれているか)否かを調べる(立証する)方法
既に述べた通り,遺産である預金が引き出された場合において,預金を引きだした者に対する返還請求が認められるためには,遺産である預金を引き出された側が,無断引き出し・使い込みにあたることを主張・立証する必要があります。
それでは,預金の無断引き出し・使い込みにあたると立証するためには,どのような資料が必要になるのでしょうか。
遺産である預金の使い込み(無断引き出し)額に関する資料について
まずは,前提として,引き出された預金額がいくらであるかを把握・立証する必要があります。
この点を立証するためには,預金通帳が残っているのであれば,預金通帳が資料になります。
また,預金通帳が残っていない場合もありますが,そのような場合であっても,相続人であれば,金融機関に対して取引履歴の照会を行うことができます。
金融機関にもよりますが,被相続人が死亡したことがわかる戸籍謄本や被相続人との関係がわかる戸籍を用意すれば,概ね10年分の預金の取引履歴を出してくれることが多いです。
被相続人が保有していた預金の口座番号等がわからない場合もありますが,その場合であっても金融機関に確認をするとデータが残っている範囲で預金口座の有無を教えてくれます。
なお,金融機関によっては,他の相続人の同意が無いこと等を理由として預金取引履歴の開示を拒否することが稀にありますが,以下の平成21年1月22日最高裁判決の通り,基本的には金融機関は取引履歴の開示を拒否することはできません。
「金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」
弊所では取引履歴の取得からご依頼をいただくことも可能ですので,もし資料を取得できないとお悩みの場合はお気軽にお問い合わせください。
被相続人の身体状態・認知状態に関する資料について
次に,遺産である預金が無断で引き出された(使い込まれた)時点において,被相続人である親や兄弟の身体状態・認知状態が悪ければ悪いほど,遺産である預金の引き出しが被相続人の意思に反していたといいやすくなります。
というのも,一般的には,被相続人が元気な状態であれば,被相続人本人が預金を引き出したと言いやすくなり,また,被相続人本人が引き出した預金を使用していたと言える可能性が高まるからです。
したがって,遺産である預金を無断で引き出した(使い込んだ)者に対して返還請求をするためには,被相続人の状態を立証する資料を取得することが重要になってきます。
この被相続人の状態を立証するための資料としては,医師のカルテや看護記録,介護施設の日報,介護認定の際に作成される主治医意見書や認定調査票等があげられます。
これらの資料は,病院や介護施設,介護認定を受けていた市区町村等から取得できますが,病院等によっては開示を拒否する場合があります。
このような場合であっても,弁護士が介入することによって資料が開示されることもありますので,お困りの際はお問い合わせください。
遺産である預金の無断引き出し・使い込みが疑われる側が良く行う反論と対策
遺産である預金の無断引き出し・使い込みに関する資料を取得・確認した結果,遺産である預金を使い込んだと疑われるのであれば,不当利得返還請求権または不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,無断で引き出された(使い込まれた)金銭の返還請求を行うことになります。
その場合であっても,相手方からどのような反論がなされるかを予想したうえで対策を事前に練っておくことが有益です。
それでは,遺産である預金の無断引き出し・使い込みが疑われる相手方からは通常どのような反論がなされるのでしょうか。
被相続人死亡前の無断引き出し・使い込みに対する反論
【被相続人本人が預金を引き出したものであるという反論】
まず,相手方から,「被相続人本人が預金の引き出しを行ったのであって,自分は預金の引き出しを行っていない」という反論が想定されます。
このような反論がなされた場合,預金の引出場所や被相続人の状態から当該反論が不合理であることを主張・立証することが考えられます。
例えば,被相続人と無断引き出しが疑われる相続人の自宅が遠く離れているにもかかわらず,預金の引出場所の大半が,当該相続人の自宅の支店であった場合,当該相続人の主張は不合理であると言いやすくなるでしょう。
また,被相続人の足の状態が悪かった,認知症で引き出される状態ではなかった等の事情があった場合も,被相続人本人が預金を引き出していないことの一つの根拠になると言えます。
なお,預金が引き出された支店は,取引履歴に記載されている番号等から判明することがよくありますので,取引履歴を取得した場合は事前に確認をするとよいでしょう。
【引き出した預金は被相続人から贈与を受けたものであるという反論】
次に,「預金を引き出したのは被相続人本人ではなく自分であるが,引き出した預金は被相続人から贈与を受けた」という反論がありえます。
このような反論がなされた場合,被相続人の状態,贈与がなされた時点における被相続人と引出を行った相続人との関係や,贈与に関する経緯,引出しの態様・金額・頻度,贈与を裏付ける資料の有無から,贈与が存在しなかったことを主張立証することが考えられます。
例えば,被相続人と引出を行った相続人との関係が悪化しており,贈与がなされるような状況ではなかったにもかかわらず,高額な金銭が引き出されていた場合,贈与が不自然であり贈与が不合理であると言いやすくなります。
また,例えば,贈与がなされた時期において,被相続人の認知症が重く,贈与について理解ができるような状態ではなかった場合も,贈与が不自然・不合理であると判断される可能性が高いと言えます。
【引き出した預金は被相続人の生活費として使用したものであるという反論】
更に,「引き出した預金は,被相続人本人の生活費のために支出した。」という反論がありえます。
このような反論がなされた場合も,引き出された金額や頻度,被相続人の状態や,生活状態,使い込みが疑われる者が預金を管理するようになった時期における引出金と従前の引出金とから,生活費として過剰な支出であることを主張することが考えられます。
例えば,従前,被相続人の生活費が20万円程度であったにもかかわらず,特段の事由が存在しないのに,使い込みが疑われる者が管理をしてから毎月100万円に近い金額が引き出されている等の事情がある場合,生活費として支出した旨の主張は不自然・不合理であると言いやすくなります。
被相続人死亡後の無断引き出しに対する反論
被相続人死亡後の引出に対しては,「葬儀費用として支出した」旨の反論がよくなされます。
もっとも,葬儀費用は喪主が負担すべきであると考えることが比較的多いといえるため(名古屋高裁平成24年3月29日判決),引き出した者が喪主であった場合,自ら負担すべき金銭を遺産から充てたことになります。
したがって,遺産である預金を引き出した者からこのような反論がなされた場合は,他の相続人が葬儀費用として使用することを承諾していたという事情が無い限り,預金を引き出した者の反論は認められない可能性が高いと言えます。
被相続人死亡前後に共通する反論
その他,被相続人死亡前後に共通する反論としては,
①「消滅時効が成立している」
②「遺産分割協議書を作成しているためもはや預金の引き出しの問題は解決済みである」
というものがあげられます。
まず,①の「消滅時効が成立している」という反論ですが,預金の無断引き出し・使い込みに対する返還請求の時効は,不当利得返還請求権に基づく請求の場合は,遺産である預金から引き出されてから10年(改正後の民法では,遺産である預金が引き出されたことを知った時から5年または権利を行使できるときから10年)になります。
他方で,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて請求を行う場合は,遺産である預金が引き出されたことを知った時から3年または引出から20年(改正後の民法も基本的には同様になります。)になります。
不当利得返還請求権に消滅時効が成立していたとしても,不法行為に基づく損害賠償請求権に消滅時効が成立していなければ返還請求をすることができますので,時効について心配する必要はあまりないことが多いです。
もっとも,10年以上前の引出の場合は,時効にかからないとしても当時の資料が残っていないことがよくあります。したがって,別途立証の問題が残るということに留意する必要があるでしょう。
次に,②の「遺産分割協議書を作成しているためもはや預金の無断引き出しの問題は解決済みである」という反論ですが,遺産分割協議書において,いわゆる「清算条項」と呼ばれる条項が存在しない場合は,遺産分割は今ある遺産を分ける手続であって,預金の無断引き出し(使い込み)の問題とは別であるため,あ熊で遺産分割協議書と預金の無断引き出しは別問題と言えます。
したがって,当該反論が認められない場合が多いと言えそうです。
遺産である預金の無断引き出し(使い込み)がなされた場合の具体的な解決手続
これまで遺産である預金の無断引き出し(使い込み)がなされた場合にどのような資料を集めるべきか,また,どのような反論がなされるかを解説致しました。
それでは,資料収集の結果,遺産である預金の無断引き出し(使い込み)が強く疑われる場合,どのような手続を経て解決まで進むことになるのでしょうか。
まず,預金を引き出した相手方が相続人であり,預金の無断引き出し(使い込み)を認めた場合は,遺産分割協議の中でまとめて解決をすることも可能です。
もっとも,預金を引き出した相手方が無断引き出しをしたことを認めるということは多くありません。多くの場合は,預金を引き出した者は,上で述べたような反論を行い返還をすることを拒みます。
その場合の解決方法ですが,民事訴訟を提起して不当利得返還請求権または不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて返還請求を行うことがオーソドックスな手続と言えるでしょう。
民事訴訟を提起した場合,裁判期日が複数回開かれることになります。その後,双方で主張・立証の応酬を行い,その中で折り合いがつけば,和解による解決になることもあります。折り合いがつかない場合は判決ということになります。
終わりに
以上,遺産である預金の無断引き出し(使い込み)がなされた場合の対処法について解説を致しました。
遺産である預金の無断引き出し(使い込み)がなされた場合は,資料の収集・確認,相手方の反論の検討・対策等,手続の選択等,専門的知識が必要になります。
このような問題を解決するためには,預金の無断引き出し(使い込み)の問題を多く扱っている弁護士に依頼をすることがベストであると言えます。
東京都中野区に所在する吉口総合法律事務所では,預金の無断引き出し(使い込み)の問題を多数扱った経験があり,多数のノウハウや解決事例を有しています。
預金の無断引き出し(使い込み)に関し,ご相談がございましたら,中野区で相続無料法律相談対応の吉口総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。