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収益不動産の相続、何に悩んでいますか?
「親が遺したアパートを相続することになったが、遺産分割が終わるまでの家賃は誰のものになるのだろうか」
「収益不動産にはまだローンが残っているようだが、誰が支払うことになるのか」
「相続人は兄弟3人。今後の管理や運営方針で揉めてしまわないか心配だ」
ご親族が亡くなり、アパートやマンションといった収益不動産を相続することになった際、このような疑問や不安を抱える方は少なくありません。
現金や預貯金とは異なり、収益不動産は「家賃収入」というプラスの側面と、「ローン返済」や「管理義務」といったマイナスの側面を併せ持つ、特殊な財産です。そのため、遺産分割の話し合いが複雑になり、相続人間で思わぬトラブルに発展してしまうケースもございます。
しかし、そのようなお悩みも解決が可能なことが多いところです。
収益不動産の相続には、特有の法律問題や実務上の注意点が存在するため、事前にこれらのポイントを正しく理解し、一つひとつ丁寧に整理していけば、適切な手続と専門家の助言によって、解決の見通しが立つ可能性が高まります。
この記事では、相続・不動産問題に注力する弁護士が、収益不動産の遺産分割で特に重要となる「賃料」「債務」「管理」の3つのテーマを中心に、具体的な注意点とトラブルを回避するための進め方を分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、漠然とした不安が解消され、問題解決のための手段が見えているはずです。
収益不動産の遺産分割で揉めないための最重要3ポイント
収益不動産の遺産分割を円滑に進めるためには、まず問題の全体像を把握することが重要です。特に注意すべきポイントは、以下の3つに集約されます。
- 1.遺産分割前の「賃料」と「管理」の複雑なルール
- 2.見落としがちな「ローン・保証金」など債務の承継
- 3.揉め事の原因になりやすい「評価」と「分割方法」
これらは相互に関連し合っており、見落としてしまうと後々トラブルに繋がる可能性があります。まずはそれぞれのポイントがなぜ重要なのか、概要を掴んでいきましょう。

ポイント1:遺産分割前の「賃料」の帰属と「管理」の義務・費用負担ルール
「遺産分割が終わるまで、家賃は誰が受け取るのですか?」これは、しばしばよくいただくご質問の一つです。
相続人の方の中には、家賃も不動産本体と同じように「遺産」の一部と考え、遺産分割協議で分け方を決めるものだと考えになることもあります。
しかし、法律上の扱いは異なります。
最高裁平成17年9月8日判決では、次のように判示しております。
「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」
参考:出典:裁判所ホームページ(https://www.courts.go.jp)の裁判例 …
このように、家賃は、原則として遺産分割協議の対象にはならず、法律で定められた割合で各相続人が受け取る権利を持っているのです。
● 弁護士の視点
相続が開始すると、遺言がなければ収益不動産は遺産分割が完了するまで法定相続人の共有状態となります。共同相続人は不動産の所有権だけでなく、賃貸人としての地位も承継します。そのため、相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料は、遺産とは別個の財産として扱われるのです。
しかし、これは権利だけの話ではありません。賃料収益権とともに「管理義務」も負うことになります。
共有状態では管理義務や費用負担の分担が問題となり得るため、分担方法や代表者の権限を明確にする必要があります。
例えば、建物の修繕が必要になった場合、その費用負担をどうするか、誰が業者を手配するかなど、相続人が増えることで意思決定が複雑になり、管理が非常に難しくなるという現実的な問題が生じます。
一方で、賃料を受け取る権利があるからといって、管理(修繕や入居者対応など)の義務を怠ることはできません。
共有状態では管理義務や費用負担の分担が問題となり得るため、分担方法や代表者の権限を明確にする必要があります。誰か一人が代表して管理していても、トラブルが発生した際の責任は相続人全員に及ぶ可能性があるため注意が必要です。
ポイント2:見落としがちな「ローン・保証金」など収益不動産の債務承継の注意点
収益不動産には、プラスの財産だけでなく、購入時のローンや入居者から預かっている敷金・保証金といった「マイナスの財産(債務)」が付随していることも多いです。
これらの金銭債務は相続の発生によって各相続人が法定相続分に応じて相続をすることになりますが、相続人内部の負担関係は遺産分割によって合意をすることが可能です。
一方で、遺産分割の内容にもかかわらず、金融機関等の債権者は相続発生後も引き続き各相続人に対し法定相続分に応じて請求することが可能です。ただし、債務者を一元化するために債務者と協議をすることがあり、債務引受の手続により債務者を一元化することもあります。その場合は最終的に法定相続にしたがった債務負担とは異なった債務関係になることもあります。

例えば、3000万円のローンが残っており、相続人が子3人であれば、それぞれが1000万円ずつの返済義務を負うのが原則です。しかし、実務上は「不動産を取得する人がローンも全て引き継ぐ」といった内容で遺産分割協議をまとめ、金融機関と交渉を行うこともあります。
ここで非常に重要なのが、相続人間の合意だけでは、債務の承継方法を変更することはできないという点です。
● 弁護士の視点
収益不動産には、購入時のローンやテナントからの保証金といった関連債務が存在することがあります。これらの債務は通常、その不動産を取得する相続人が承継することで話がまとまることも多いでしょう。
しかし、そのためには相続人間の合意だけでなく、債権者である金融機関との合意が重要になります。金融機関は、債務を引き継ぐ人の返済能力を審査し、もし審査に通らなければ、金融機関は他の相続人にも法定相続分どおりの返済を求め続けることも可能です。
相続人間の合意を金融機関に一方的に主張することはできないため、安易に考えず、事前に金融機関への相談や専門家を交えた調整が重要になります。
ポイント3:揉め事の原因になりやすい「評価」と「分割方法」
収益不動産は、現金のように明確な金額がありません。そのため、「この不動産をいくらと評価するか」という点で相続人間の意見が対立し、トラブルの原因となりがちです。
主な評価方法には、以下のようなものがあります。
| 評価方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 相続税評価額(路線価等) | 公的な基準で公平感がある | 実際の市場価格(時価)より低いことが多い |
| 不動産業者の査定額 | 時価に近い金額で、費用が発生しないことが多い。 | 業者によって査定額にばらつきがある |
| 不動産鑑定士による鑑定評価 | 客観的で信頼性が高い | 鑑定にあたって費用が発生する |
どの評価方法を用いるかについて相続人間で合意を形成した上で、具体的な分割方法を検討することになります。代表的な分割方法は以下の4つです。
- 現物分割:不動産そのものを特定の相続人が取得する方法。
- 換価分割:不動産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法。
- 代償分割:特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金(現金)を支払う方法。
- 共有分割:複数の相続人が持分を決めて共同で所有する方法。
このうち、共有分割は一見公平に見えますが、将来の管理や売却の際に再び揉める可能性が高く、慎重な判断が求められます。
共有状態のリスクについては、相続した遺産に土地や建物の共有持分が存した場合の注意点と分割方法の記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
トラブル回避のための具体的な解決策と進め方
ここまで見てきたように、収益不動産の遺産分割には多くの注意点が存在します。では、これらの問題を乗り越え、円満な解決に至るにはどうすればよいのでしょうか。具体的な解決策と手続の進め方について解説します。
原則は「単独取得」を検討すべき理由
収益不動産の遺産分割において、最も推奨するのは、相続人のうちの誰か一人が単独で取得する方法です。
● 弁護士の視点
賃料や管理義務、債務承継の問題を総合的に考えると、収益不動産を複数の相続人で共有することは、将来の紛争の火種を抱え込むことになりかねません。
例えば、大規模修繕が必要になった際の費用負担で意見が割れたり、一人が売却を希望しても他の共有者が反対して身動きが取れなくなったりするケースも珍しくありません。
このような事態を避けるためにも、遺産分割の段階で、代償分割や換価分割といった方法を活用し、権利関係をシンプルにする「単独取得」を目指すことが、多くの場合、争いを避けるために有効な方法となり得ます。
複数の相続人で不動産を共有すると、以下のような問題が生じやすくなります。
- 意思決定の遅れ:修繕や新たな入居者の募集など、何かを決めるたびに全員の同意が必要となり、迅速な経営判断が難しくなります。
- 費用負担の対立:固定資産税や修繕費などの必要経費の負担割合で揉める可能性があります。
- 将来の売却・相続の複雑化:共有者の一人が自分の持分だけを売却することは困難です。また、共有者が亡くなるとさらにその相続人に権利が分散し、関係者が増えて収拾がつかなくなる恐れもあります。
不動産経営の経験がある相続人が代償金を支払って単独で引き継ぐ(代償分割)、あるいは、全員で合意して売却し現金で分ける(換価分割)といった方法を検討することが、長期的に見て最もトラブルの少ない解決策と言えます。

やむを得ず共有する場合に協議書に記すべきこと
相続人の状況によっては、どうしても共有せざるを得ないケースもあるでしょう。その場合は、将来の紛争を予防するために、遺産分割協議書に単に「不動産を〇分の1ずつ共有する」と記載するだけでなく、管理・運営に関する具体的なルールを詳細に定めておくことが極めて重要です。
● 弁護士の視点
万が一、複数の相続人で管理する場合には、将来の紛争を避けるため、遺産分割協議書に不動産の使用、管理、変更に関する方法や賃料収入の分配方法、管理費用や固定資産税などの費用負担について、できる限り具体的に記載しておくべきです。
例えば、「大規模修繕は〇年に一度実施し、費用は持分割合に応じて負担する」「賃料は毎月末日に指定口座に振り込み、そこから経費を支払った残額を分配する」といった具合です。
その他、以下のような項目を盛り込むことも手段の一つです。
- 賃料収入の分配ルール(振込先口座、分配日、分配割合など)
- 管理費用や固定資産税、修繕費などの費用負担の割合と支払方法
- 管理の中心となる代表者と、その権限の範囲
- 大規模修繕や賃料改定など、重要な意思決定を行う際の方法(全員の合意か、多数決かなど)
- 共有状態を解消したい場合(売却など)の条件や手続
なお、相続人が共同で管理をする場合、収支の把握や支出の正当性が不明瞭であることが原因で紛争が起こることも多いため、費用はかかりますが、第三者である不動産管理会社に管理を委託し、収支を明瞭にすることも有効な紛争予防策となります。
話し合いが難しい場合は弁護士に相談を
収益不動産の遺産分割は、法律問題だけでなく、不動産経営や税金の知識も求められる複雑な手続です。また、相続人間の感情的な対立から、当事者だけでの冷静な話し合いが困難になってしまうことも少なくありません。
もし、相続人間での話し合いがまとまらない、あるいは話し合い自体が難しいと感じた場合は、お一人で悩まずに弁護士にご相談ください。弁護士が代理人として交渉の窓口に立つことで、法的な論点を整理し、感情的な対立を排して、客観的な事実に基づいた冷静な話し合いを進めることが可能になります。
話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停や審判といった法的な手続に移行することになりますが、その場合も弁護士が代理人としてサポートいたします。問題が複雑化する前に、できるだけ早い段階で専門家にご相談いただくことが、ご自身にとっても、ご家族にとっても、円満な解決への一番の近道です。
もし収益不動産の相続でお悩みでしたら、当事務所では初回30分の無料相談も実施しておりますので、お気軽にご利用ください。
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まとめ:収益不動産の遺産分割は専門家と慎重に進めましょう
この記事では、収益不動産の遺産分割における「賃料」「債務」「管理」という3つの重要な注意点と、その具体的な解決策について解説しました。
収益不動産の相続は、他の財産と比べて特殊で複雑な問題が多く絡み合います。特に、遺産分割が完了するまでの賃料の帰属、ローンなどの債務の承継、そして将来の管理運営方法は、密接に関連しており、一つひとつ丁寧に対応していく必要があります。
ご自身で判断に迷われたり、相続人間での話し合いに不安を感じたりしたときは、決して一人で抱え込まずにご相談ください。
当事務所にご相談いただくことで、皆様が一日も早く不安から解放され、笑顔のある日常生活を取り戻すためのお手伝いができれば幸いです。

代表弁護士の吉口 直希です。
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