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「もらえる遺留分が少ない…」と諦める前に知ってほしいこと
「遺言書を見たら、ほとんどの財産が他の兄弟に渡すことになっていた」「生前に多額の援助を受けていたはずなのに、それが考慮されていない」…。
ご自身の取得できる遺産が想定よりも著しく少ないと知ったとき、多くの方が強い不公平感や、故人に対する悲しい気持ちを抱かれることでしょう。法的に保障されているはずの「遺留分」を請求しようにも、提示された金額があまりに少なく、途方に暮れてしまうかもしれません。
しかし、ここで諦めてしまうと損をしてしまう可能性があります。遺留分の計算は非常に専門的であり、その基礎となる遺産の評価や範囲の捉え方一つで、請求できる金額は大きく変わる可能性があります。
不当に低く見積もられた遺留分は、いわば「本来あなたが受け取るべきだった、正当な金額」が十分に反映されていない状態かもしれません。
この記事では、そのような状況を打開し、ご自身の権利である遺留分を「適正な金額」で獲得するための、弁護士が実践する専門的な4つのテクニックを詳しく解説します。
もしあなたが「このままでは納得できない」と感じていらっしゃるなら、ぜひ最後までお読みください。きっと、次の一歩を踏み出すための具体的な道筋が見えてくるはずです。
遺留分の請求額を増やすための4つの専門的テクニック
遺留分の請求額を、法的に正当な範囲で最大限に引き上げるためには、主に4つの重要な視点があります。これらは、遺留分を請求する側だけでなく、請求された側が反論を検討する際にも必要となる知識です。
ご自身の状況に当てはまるものがないか、まずは以下のチェックリストで確認してみましょう。
- □ テクニック1:隠れた「特別受益」を見つけ出す
他の相続人が故人から受けた特別な生前贈与(住宅資金、事業資金など)はありませんか?これらを主張することで、遺留分計算の基礎となる財産総額を増やすことができます。 - □ テクニック2:不動産・株式の「評価額」を適正に見直す
遺産に不動産や非上場の株式は含まれていませんか?相手方が提示する評価額(例:固定資産税評価額、路線価または低く算定された査定額)が時価よりも低い場合、適正な時価で再評価することで請求額を増額できる可能性があります。 - □ テクニック3:被相続人の預貯金の「使い込み」を調査する
故人の預貯金口座から、生前に不自然な多額の出金はありませんか?特定の相続人による無断の引き出し(使い込み)が疑われる場合、その分を遺産に含めるよう主張できる可能性があります。 - □ テクニック4:過去の贈与財産の「評価時期」を見直す
過去に贈与された不動産などを相手方がすでに売却している場合、その売却額ではなく、「相続開始時」の評価額で計算し直すことで、請求額が増えるケースがあります。
これらのテクニックは、いずれも専門的な知識と調査を要するものです。以下で、それぞれの手法について具体的に解説していきます。

【テクニック1】隠れた「特別受益」を見つけ出し、遺産の総額を増やす
遺留分の増額を目指す上で、最も基本的かつ重要なアプローチが「特別受益」の主張です。
特別受益とは、特定の相続人が被相続人(亡くなった方)から生前に受けた、遺産の前渡しと評価できるような特別な利益のことを指します。
これをきちんと主張・立証することで、その贈与額を「みなし相続財産」として遺産の総額に加算させることができます。結果として、遺留分の計算の基礎となるパイそのものが大きくなり、あなたが請求できる金額も増えるのです。
2019年7月1日の民法改正により、原則として相続開始前10年以内の特別受益が遺留分算定の基礎財産に算入されることになりました。ただし、10年を超える贈与でも当事者間において遺留分権利者に損害を与えることを知っていた等の例外的事情が認められる場合は、算入され得ます。
特別受益に該当する贈与の具体例
どのような贈与が特別受益と認められやすいのでしょうか。ご自身のケースに当てはまるものがないか、以下の例を参考に記憶を整理してみてください。
- 生計の資本としての贈与
- 住宅購入資金、新築・増改築の資金援助
- 事業の開業資金、運転資金の援助
- 借金の肩代わり(返済資金の援助)
- 婚姻や養子縁組のための贈与
- 一般的な結納金や嫁入り道具の範囲を大きく超える持参金、支度金
- 結婚式の費用援助(社会通念上、親の扶養義務の範囲を超える部分)
- 高額な学費・留学費用
- 他の兄弟姉妹と比較して著しく高額な学費(例:私立大学医学部の学費など)
- 長期間にわたる海外留学の費用
- その他
- 特定の相続人だけに渡された高額な金銭
- 特定の相続人を受取人とする生命保険金(一概には言えませんが、取得した遺産額と比較して受領した保険金額が著しい大きい場合は特別受益に準じて扱われることがあります)
特別受益を証明するための証拠集めと主張方法
特別受益を主張するためには、残念ながら「あの時、援助してもらっていたはずだ」という記憶だけでは不十分です。
客観的な証拠によって、その事実を相手方や裁判所に示す必要があります。
以下のような資料が有効な証拠となり得ます。
- 銀行の取引履歴(振込明細):被相続人の口座から相手方の口座へ、まとまった金額が振り込まれた記録。
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本):不動産の購入資金援助があった場合、購入時期や資金の流れを推認する材料になります。
- 被相続人の日記、手紙、メモ、メール:「〇〇に開業資金として××円を渡した」といった記載。
- 相手方自身の言動:過去に贈与の事実を認めるような発言をしていた場合、その録音や、他の親族による証言。
直接的な証拠が乏しい場合でも、諦める必要はありません。例えば、「相手方は当時、自身の収入だけでは購入できるはずのない高額な不動産を手に入れている」といった状況証拠を積み重ね、合理的な推認を促す主張を組み立てていくことも状況によっては可能です。
このような主張の構成には高度な専門知識が求められるため、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
【テクニック2】不動産・株式の「評価額」を適正に見直し、請求額を上げる
遺産の中に土地や建物などの不動産、あるいは非上場の会社の株式が含まれている場合、その「評価額」が遺留分の金額を左右する極めて重要な要素となります。
特に不動産が絡む相続では、共有持分をどう扱うかという問題も生じがちです。詳しくは「相続した遺産に土地や建物の共有持分が存した場合の注意点と分割方法」のページでも解説していますが、まずは個々の財産の評価額を適正に把握することが先決です。
なぜ「時価」での評価が重要なのか?
相続が発生すると、多くの場合、相続税の申告のために財産評価が行われます。不動産であれば「路線価」や「固定資産税評価額」が用いられるのが一般的です。
しかし、遺留分侵害額を計算する際の不動産評価は、これらの相続税評価額ではなく、相続開始時点での「時価(実際の取引価格)」を基準とするのが原則です。
そして多くの場合、時価は路線価や固定資産税評価額よりも高くなる傾向にあります。路線価や固定資産税評価額は時価より低くなることが多く、一般的には路線価が時価の目安として概ね8割、固定資産税評価額は地域等により変動しますがおおむね実勢の7割程度とされる例が多いです。ただし具体的な比率は地域・時期・資産ごとに差があるため、個別の査定で確認する必要があります。
相手方が相続税申告時の評価額を前提に遺留分を計算してきた場合、それを「時価」で評価し直すことで、遺産の総額が上がり、結果として請求できる遺留分も増額される可能性が高いのです。
また、相手方が不動産業者の査定書を証拠として提出して時価である旨主張してきた場合も、不当に評価額が低く抑えられている場合もあります。不動産の適切な評価額を踏まえているかも確認する必要があります。
これらは、請求する側にとって非常に大きなポイントです。

不動産の時価を調べる具体的な方法
では、具体的にどうやって不動産の時価を調べればよいのでしょうか。いくつかの方法が考えられます。
- 不動産業者の査定を取得する
最も手軽な方法です。対象不動産の近隣にある複数の不動産業者に簡易査定を依頼します。無料で対応してくれることが多く、おおよその時価の相場観を掴むことができます。交渉の初期段階では、これらの査定書が有効な資料となります。 - 類似の取引事例を調べる
国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ」などを利用して、近隣の類似物件が実際にいくらで取引されたかを調べることができます。客観的なデータとして、交渉材料の一つになります。
どの方法を選択すべきかは、事案の複雑さや相手方との交渉状況によって異なります。まずは複数の不動産業者から査定を取り、相手方の提示額との乖離を確認することから始めるのが現実的でしょう。
【テクニック3】被相続人の預貯金の「使い込み」を調査し取り戻す
「生前、親の預金通帳は兄が管理していたが、亡くなった後に残高を見たらほとんど残っていなかった…」。このようなケースでは、他の相続人による預貯金の「使い込み(不当な引き出し)」が疑われます。
これは相続人間の感情的な対立を招きやすい非常にデリケートな問題ですが、もし使い込みが事実であれば、その金額は本来遺産に含まれるべきものであり、遺留分の算定基礎に加えるよう主張することができます。
預貯金の使い込みを疑うべきサインとは?
使い込みの可能性を検討すべき典型的な状況には、以下のようなものがあります。
- 被相続人が高齢で、判断能力が低下していた時期に、多額の出金が繰り返されている。
- 入院や施設への入所後など、被相続人自身がお金を使うはずのない時期に、頻繁な引き出しがある。
- 引き出された金額が、当時の医療費や介護費用、生活費として説明するには不自然に高額である。
- 特定の相続人が通帳やキャッシュカードを管理しており、他の相続人にその内容を開示しようとしない。
- 被相続人の死亡直前に、まとまった金額が引き出されている。
金融機関での取引履歴の取り寄せ方と分析のポイント
使い込みの疑いがある場合、まず行うべきは証拠の確保です。具体的には、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴(入出金明細)を金融機関から取り寄せることから始めます。
相続人であれば、戸籍謄本(被相続人の死亡の事実と、自身が相続人であることを証明するもの)、身分証明書、実印、印鑑証明書などを持参すれば、金融機関の窓口で手続きができます。
取り寄せた取引履歴を分析する際は、以下の点に注目します。
- 出金の時期:被相続人の判断能力が低下したとされる時期以降の出金に絞って確認します。
- 出金の金額と頻度:生活費とは考えにくい高額な出金や、ATMの引き出し限度額での連続した出金がないかを確認します。
- 出金の方法:窓口での引き出しか、ATMでの引き出しか。窓口の場合、伝票の筆跡が誰のものかという点が問題になることがあります。
取引履歴の保存期間は金融機関や取引の種類によって異なります(短期のものから10年程度のものまである)。具体的な期間や取得可否は各金融機関により差があるため、早めに照会・手続きを行うことが重要です。
遺留分侵害額請求で損をしないための注意点と弁護士への相談
これまで解説してきたテクニックを駆使して適正な遺留分を請求する上で、絶対に忘れてはならない注意点があります。それは「時効」の存在です。
絶対に知っておくべき「1年」の時効
遺留分侵害額請求権は、①相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈・贈与を「知ったとき」から1年で消滅時効にかかり、②相続開始から10年で除斥期間により行使できなくなります。
- 相続が開始したこと(被相続人が亡くなったこと)
- 自分の遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと
「知った時」がいつかという点は解釈が分かれることもありますが、例えば「遺言書の内容を知らされた時」などが典型例です。この1年という期間は非常に短く、財産調査や交渉をしている間にあっという間に過ぎてしまう可能性があります。
時効の完成を防ぐためには、まずは「配達証明付き内容証明郵便」を送付し、「私は遺留分侵害額を請求します」という意思表示を相手方に対して明確に行うことが極めて重要です。これにより、短期の時効の成立を防ぐことができます。
弁護士に依頼するメリットとタイミング
遺留分侵害額請求は、ご自身で行うことも不可能ではありません。しかし、ここまでお読みいただいたように、その請求額を適正なものにするためには、専門的な知識と多くの時間、そして労力が必要です。
弁護士にご依頼いただくことで、以下のようなメリットが得られます。

- 正確な財産調査:預貯金の取引履歴の取得や不動産の評価はもちろん、弁護士会照会といった専門的な手段を用いて、ご自身では調査が難しい財産についても明らかにできる場合があります。
- 法的に的確な遺留分額の計算:特別受益や寄与分、財産の評価など、複雑な要素をすべて考慮した上で、法的に正当な請求額を算出します。
- 相手方との冷静かつ有利な交渉:感情的な対立に陥りがちな親族間の交渉を、法律の専門家として冷静に進め、依頼者の代理人として有利な解決を目指します。
- 調停・訴訟への適切な対応:交渉で話がまとまらない場合、家庭裁判所での調停や訴訟手続きに移行しますが、その際もすべての手続きを代理し、依頼者の権利を守るために尽力します。
ご相談いただく最適なタイミングは、「遺言書の内容や遺産の分け方に少しでも疑問や不満を感じた時点」です。時効の問題もありますし、時間が経つほど証拠も集めにくくなります。早めにご相談いただくことで、より多くの選択肢の中から最善の解決策を見つけ出すことが可能になります。
もしお困りでしたら、当事務所の遺留分に関する初回無料相談はこちらをご利用ください。
まとめ|適正な遺留分を獲得するために、まずはご相談ください
遺留分は、法律で認められた相続人の正当な権利です。しかし、その権利を現実の「適正な金額」として手にするためには、受け身の姿勢では不十分な場合が少なくありません。
今回解説したように、
- 隠れた「特別受益」はないか
- 不動産や株式などの「財産評価」は適正か
- 預貯金の「使い込み」はなかったか
といった専門的な視点から遺産全体を見直し、積極的に主張していくことが、ご自身の権利を守る上で不可欠です。
これらの調査や交渉をご自身だけで行うことには、精神的にも時間的にも大きな負担が伴います。また、親族間の問題であるからこそ、感情的な対立が深まり、話し合いがこじれてしまうケースも多々あります。
吉口総合法律事務所では、ご相談者様のお話を丁寧に伺い、何が最も不安で、どのような解決を望んでいらっしゃるのかを深く理解することから始めます。そして、ご相談から事件の終了まで、一人の弁護士が一貫して担当し、あなたの伴走者として問題解決にあたります。
「相談してよかった」と思っていただけるよう、全力でサポートいたします。一人で悩まず、まずはその胸の内をお聞かせください。お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。

代表弁護士の吉口 直希です。
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