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不動産投資による自己破産を考え始めた方へ
「金利が上がり賃料収入よりもローンの返済額の方が大きい」「想定外の空室で収入が途絶えた」「修繕費がかさみ、賃料収入より返済額の方が大きい」「このままでは貯蓄が底をついてしまう」…このような状況に陥り、先の見えない不安から夜も眠れない日々を過ごされているのではないでしょうか。
その問題は法的な手続きに則って、必ず解決への道筋を見出すことができます。
この記事は、不動産投資を理由に自己破産を検討されている方のために、吉口総合法律事務所の弁護士が、専門家としての知見と経験に基づき執筆しました。この記事を読み進めることで、以下の点を明確に理解できるはずです。
- 不動産投資を理由とする借金問題が自己破産により解決できること
- 不動産投資が原因でも借金が免除される「裁量免責」とは
- 弁護士への相談から免責決定までの具体的な流れと期間
- 手続きの鍵を握る「破産管財人」との向き合い方
複雑な法律用語や手続の流れも、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事が、不安を和らげる一助となることを目指しています。
不動産投資による債務問題を自己破産により解消可能
不動産投資が原因で自己破産を検討する場合、一般的な借金問題とは異なる、特有の現実に直面します。それは、投資用不動産という「高額な資産」が存在するがゆえに、手続きがより慎重かつ複雑に進められるという点です。ご自身の状況を客観的に理解し、なぜ専門家のサポートが不可欠なのかを知ることが、解決への第一歩となります。

なぜ「管財事件」として扱われる可能性が高いのか?
自己破産の手続きには、大きく分けて「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。
- 同時廃止:破産者に大きい財産がなく、債権者に配当する原資がない場合に、破産手続の開始と同時に手続きを終了(廃止)させるシンプルな手続きです。
- 管財事件:裁判所が「破産管財人」を選任し、破産者の財産を調査・管理・売却して、その代金を債権者に公平に分配(配当)する、より丁寧な手続きです。
管財事件では、裁判所から選任された破産管財人が手続の主導権を握ります。そのため、手続の流れや注意点を正しく理解しておくことが極めて重要になります。
投資を理由とする破産・免責はできないという誤り
「投資の失敗は自己破産できないと聞いた…」これは、ご相談者様から寄せられる不安の一つです。
確かに破産法では、次の通り、浪費は原則として免責(借金の支払義務を免除すること)が許可されない「免責不許可事由」に該当しうると定めています。
(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
(出典:e-Gov法令検索 破産法)
しかし、だからといって直ちに自己破産による免責が認められないわけではないのです。
実際には、たとえ免責不許可事由に該当する事情があったとしても、裁判所が破産に至った経緯や本人の反省の度合い、手続きへの協力姿勢などを総合的に考慮し、その裁量によって免責を許可する「裁量免責」という制度があります。
専門家の視点:免責が不許可となる確率は極めて低い
原則として、真摯に協力し事実関係が説明されるなどの事情がある場合、裁判所の裁量により免責が認められることがあります。
判例タイムズ1518号「東京地裁倒産部における近時の免責に関する判断の実情(令和版)」5頁によれば、東京地裁の令和5年度における免責による終結事案に対する免責不許可の割合は、わずか0.3%とされています。
自己破産手続による問題解決:申立てから免責までの流れ
不動産投資による自己破産(管財事件)が、具体的にどのような流れで進むのかを時系列で解説します。全体像を把握することで、漠然とした不安が和らぎ、冷静に次のステップを考えることができるようになります。

ステップ1:弁護士への相談・依頼
返済が困難になったと感じたとき、それが弁護士に相談すべき最初のタイミングです。弁護士に依頼すると、まず債権者(金融機関など)に「受任通知」が送付されます。この通知が届けば、あなたへの直接の取り立てや督促は原則としてストップし、精神的な平穏を取り戻すことができます。
相談時には、以下の資料をお持ちいただくと、より具体的でスムーズなアドバイスが可能になります。
- 投資用不動産の登記簿謄本(全部事項証明書)
- 不動産購入した際の契約書、返済予定表
- 家賃収入や管理費・修繕積立金などの収支状況がわかるもの(通帳、レントロール等)
- 賃借人との賃貸借契約書や管理会社との管理委託契約書
- その他の借入れに関する資料
- ご自身の資産状況がわかるもの(預金通帳、保険証券など)
相談のタイミングを逃し、手持ちの資産が底をついたり、給与や預金が差し押さえられたりしてからでは、自己破産の手続きに必要な費用(裁判所へ納める予納金や弁護士費用)を捻出すること自体が難しくなってしまうケースもあります。「まだ何とかなるかもしれない」と考えているうちに、選択肢が狭まってしまう前に、ぜひお早めにご相談ください。
ステップ2:裁判所への申立て準備
弁護士にご依頼いただいた後、裁判所へ自己破産の申立てを行うための準備に入ります。申立書や陳述書(破産に至った経緯を説明する書類)の作成、そして数多くの添付書類の収集を弁護士と協力して進めます。
特に不動産投資案件では、一般的な自己破産に加えて、前述のとおり、以下のような資料が重要となります。
- 不動産の査定書(評価額を明らかにするため)
- レントロール(賃貸状況の一覧表)
- 個別の賃貸借契約書
- 管理委託契約書
これらの資料は、破産管財人が後の調査を円滑に進めるために必要になります。当事務所では、破産管財人がどのような情報を必要とするかを理解しているため、申立て段階からポイントを押さえた資料収集と書類作成をサポートします。
ステップ3:破産管財人との面談・調査協力
裁判所に申立てが受理されると、弁護士と裁判官との面接(即日面接)を経て、破産手続開始決定予定日が決められます。同時に、裁判所によって破産管財人候補者の選任や債権者集会期日の候補日が決められます。
ご依頼者様ともに申立代理人である弁護士が、この破産管財人と面談を行うことになります(破産管財人の事務所を訪問することが多いです。)。
管財人面接では、主に以下の点について質問されます。
- 不動産投資を始めた経緯
- 収支が悪化した具体的な原因
- 現在の財産状況(不動産以外も含む)
- 免責不許可事由に該当するような行為の有無
ここでは、嘘をついたり、財産を隠したりせず、正直に事実を話すことが何よりも重要です。破産管財人はあなたの敵ではなく、法律に則って手続きを中立・公正に進める役割を担っています。協力姿勢を示すことが、最終的な免責許可への最短ルートとなります。
専門家の視点:東京地裁における手続きの進行
東京地方裁判所の場合、申立てから破産手続開始決定までは比較的スムーズに進みます。開始決定が出ると、そこから約2か月から3か月後に、後述する「債権者集会」の第一回期日が設定されるのが一般的です。その期日までの間に、破産管財人による財産・債務の調査や売却が進められます。不動産の売却に時間を要する場合、債権者集会が複数回にわたって開かれることもあります。
ステップ4:不動産の売却と破産財団への帰属
破産管財人の重要な職務の一つが、投資用不動産の売却(換価)です。
売却方法は、市場価格に近い価格での売却を目指す「任意売却」が基本となり、破産管財人は担保権者である金融機関とも交渉を行います。
売却によって得られた代金は、一部を破産財団に帰属させるとともに抵当権を有する金融機関への返済に充てられます。
ステップ5:債権者集会と免責許可決定
破産管財人による財産の調査・換価の一連の手続きが完了すると、裁判所で「債権者集会」が開かれます。これは、破産管財人が債権者に対して、調査結果や配当の見込みなどを報告する場です。
「債権者集会において債権者から厳しい追及をされるのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、個人の破産の場合、債権者が出席することは多くなく、多くは弁護士と破産管財人が出席し、5分から10分程度で終了します。もちろん、当日は申立代理人である弁護士が同席しますので、ご安心ください。
免責許可決定が確定すると、原則として通常の借金について支払義務を免れますが、税金や罰金などは免責の対象とならない場合があります。
破産管財人経験のある弁護士に相談するメリット
不動産投資による自己破産は、破産管財人との連携が手続きを円滑に進める上で極めて重要です。だからこそ、依頼する弁護士は誰でも良いわけではありません。裁判所から選任され、実際に破産管財人として数々の案件を処理してきた経験を持つ弁護士に相談することに、メリットがあります。
当事務所には破産管財人経験のある弁護士が在籍しており、その経験を依頼者様のために活用することができます。

管財人の視点を踏まえた的確な申立て準備
私たちは、破産管財人が「管財業務にあたり何を求められているのか」「どのような点を重点的に調査するのか」を、理解しています。
そのため、自己破産の申立て準備の段階から、管財人調査で問題となりそうな点を先回りして整理し、必要となる資料を的確に準備することができます。これにより、申立て後の手続きが停滞することなくスムーズに進み、結果として早期の免責許可、そしてあなたの生活再建へと繋がります。
精神的な負担を大幅に軽減できる
自己破産という手続きは、ただでさえ精神的なご負担が大きいものです。煩雑な書類の準備、債権者とのやり取り、そして破産管財人や裁判所への対応など、すべてを一人で抱え込む必要は全くありません。
私たちにご依頼いただければ、それら全ての窓口となり、あなたを法的に、そして精神的にサポートします。特に、手続きの核心となる破産管財人との面談や債権者集会には必ず同席し、あなたの隣で専門家として適切な受け答えを補助します。専門家が側にいるという安心感は、あなたがこの困難な時期を乗り越える上で、大きな力となるはずです。
もし、返済に行き詰まり、どうすれば良いか分からずお悩みでしたら、まずは当事務所の初回30分無料相談をご利用ください。あなたにとって最善の解決策を一緒に見つけ出します。
まとめ|未来への一歩は、正しい知識と専門家との相談から
不動産投資の失敗による自己破産は、多額の債務が絡むため、精神的なご負担も大きく、将来への不安は計り知れないものがあるでしょう。
当事務所でのご相談事例
当事務所には、「業者に勧められるがままに収益不動産を購入したが、実際には家賃収入よりもローン返済額の方が大きく、赤字が続いて貯蓄が尽きてしまった」というご相談や、ワンルームマンションや地方の一棟マンションを複数購入し債務額が5,000万円から1億円を超えてしまい返済ができないというご相談も珍しくありません。
不動産の評価額よりもローン残高が大幅に上回っていることがほとんどで、任意売却だけでは解決できず、自己破産を選択せざるを得ない状況に陥っています。
しかし、本記事で解説したように、たとえ状況が複雑であっても、法律は再起を目指すあなたのための道筋を用意しています。重要なのは、一人で悩み続けるのではなく、正しい知識を身につけ、信頼できる専門家へできるだけ早く相談することです。
自己破産は、人生の終わりではありません。むしろ、借金の重圧から解放され、新たな人生を再スタートさせるための法的な権利です。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では、不動産投資に関する自己破産の問題を解決した実績がございます。投資用不動産に関する自己破産のご相談がおありの方はお気軽にご相談ください。

