遺産分割協議前の遺産の処分・代償金の未払い

遺産分割協議前の処分や代償金の未払いに対する解決方法

 「相続手続きに必要な書類だと言われて実印を渡したら、いつの間にか父の預貯金が全額引き出されていた」
 「遺産分割協議で家を私がもらう代わりに、弟に代償金を支払うと約束したのに、一向に振り込まれない」

 このような場合において、どのような手続を利用して権利を実現すればよいでしょうか。
 相続に関する問題であるため、家庭裁判所を利用して遺産分割を行えば良いと考えがちですが、地方裁判所による民事訴訟による解決が望ましいケースもあります。 

 この記事では、相続にまつわる金銭トラブル、特に「遺産分割協議前の遺産の処分」と「遺産分割協議後の代償金未払い」という2つのケースに焦点を当て、なぜ家庭裁判所での話し合い(調停)ではなく、民事訴訟が有効な解決策となり得るのかを、当事務所が実際に解決した事例を交えながら、解説していきます。

民事訴訟による解決を象徴する、裁判官が使う木槌と法律書類。

【解決事例】遺産分割前の遺産の処分を民事訴訟で解決したケース

 ここでは、当事務所が担当したご相談事例の概要をご紹介します。
 ご自身の状況と重ね合わせながら、民事訴訟がどのように進み、どのような結果をもたらすのか、具体的なイメージを掴んでみてください。

 ※これは当事務所が実際に取り扱った事例を匿名化したものであり、同様の結果を保証するものではありません。

問題となった事例の概略は次のようなものでした。

 

項目 内容
相続関係 被相続人(父)の相続人は子二人の姉弟であり、弟がご相談者
経緯

・姉から遺産分割に必要であるからと言われ、遺産である父名義の預貯金の解約書類に印を押すよう求められ、解約金は姉の口座に入金された。

・その後、姉からは連絡が途絶えたため、解約金を回収するために弁護士のもとを訪問した。

・弁護士から姉宛に連絡書面を発送するも、姉からは何らの回答がなされなかった。

問題の所在  姉に対してどのような権利に基づきどのような裁判手続を経ればよいか。
弁護士がとった解決策  姉を被告として、預貯金の解約金の半額を請求する民事訴訟を提起。

  弁護士が訴訟を提起したところ、相手方(お姉様)の弁護士は、「この問題は家庭裁判所の遺産分割で解決すべきだ」と主張しました。

 しかし、遺産分割の対象となる遺産は、遺産分割時において現存する遺産でなければなりません。

 (出典:京都家庭裁判所 遺産分割手続案内 「3 遺産の存在とその内容」

 したがって、すでに相手方によって預貯金が全額解約されている以上、もはや「遺産」そのものは存在せず、弟が持つ権利は姉に対する金銭債権に変わっていると考えられます。

 この戦略が功を奏し、最終的には裁判所からの和解勧告を経て、ご依頼者の請求の大半が認められる形で解決に至りました。

 この事例は、相続トラブルであっても、その性質によっては遺産分割調停よりも民事訴訟の方がより直接的かつ迅速な解決に繋がる可能性があることを示しています。

なぜ遺産分割調停ではなく「民事訴訟」が有効なのか?

 「相続の争いは、まず家庭裁判所で話し合う(遺産分割調停)のが普通じゃないの?」
 多くの方がそう思われるかもしれません。しかし、今回取り上げている「遺産分割前の遺産の処分」や「代償金未払」といった金銭トラブルは、通常の遺産分割とは少し性質が異なります。

 ここでは、なぜ民事訴訟が有効な手段となるのか、2つのケースに分けて詳しく見ていきましょう。

ケース1:遺産分割協議「前」の遺産の処分

 遺産分割の話し合いが始まる前に、特定の相続人が被相続人(亡くなった方)の預貯金などを解約し、自分のものにしてしまうケースです。

 前述の通り、遺産分割調停は、あくまで「残っている遺産を、誰が、どのように分けるか」を話し合う手続きです。そのため、すでになくなってしまったお金を取り返す場としては、必ずしも最適とは言えません。

 遺産分割調停の場において、相手方が遺産を解約した旨の事実を主張することは可能ですが、相手方が自ら解約をした事実を認めない場合には、証拠によって処分者の認定が必要となり、結局は別途訴訟を起こさなければならないことも少なくありません。

 一方で、地方裁判所(または簡易裁判所)に起こす民事訴訟は、「処分された遺産の多く取得している部分を他方の相続人に返還すべきか」を直接的に請求する手続きです。

 目的が明確であるため、相手方が争う姿勢を見せても、証拠に基づいて裁判所が判断を下してくれます。迅速かつ根本的な解決を目指すのであれば、民事訴訟が非常に有効な手段となるのです。

ケース2:遺産分割協議「後」の代償金未払い

 今回ご紹介した事例とは異なりますが、遺産分割協議が無事にまとまり、「誰がどの財産を取得し、その代わりに誰にいくら支払う」といった内容を記した遺産分割協議書も作成した、それにもかかわらず、約束された代償金が支払われない、というケースです。

 この状況は、もはや相続の問題というよりも、遺産分割協議書という「合意」が守られていない「債務不履行」の問題と捉えるべきです。

 遺産分割調停は、遺産分割が未了の場合にこれを行います。一方で代償金の未払いは遺産分割成立後の問題です。このような場合は、遺産分割協議書を証拠として、地方裁判所に「契約通りにお金を支払いなさい」と求める民事訴訟(代償金請求訴訟)を起こすのが、最も直接的で正当な手続きです。

裁判所の管轄はどこ?家庭裁判所と地方裁判所の違い

 ここで、少し複雑に感じるかもしれない「裁判所の管轄」(どの裁判所にどのような裁判を申し立てるか)について整理しておきましょう。日本の裁判所にはいくつかの種類があり、それぞれ役割が異なります。

裁判所主な役割今回のケースでの関連手続き
家庭裁判所家庭内の紛争(離婚、親子関係など)や相続に関する手続き(遺言の検認、遺産分割など)を扱う。遺産分割調停・審判
地方裁判所個人間・企業間の金銭トラブルなど、一般的な民事事件を扱う。証拠に基づき、法的な権利関係を確定させる。代償金等の金銭請求訴訟
家庭裁判所と地方裁判所の主な役割の違い

 簡単に言えば、「遺産の分け方」で揉めている場合は家庭裁判所、「特定の金銭の支払い」を求める場合は地方裁判所が管轄となります。

 今回のような「遺産分割協議前の遺産の処分」や「代償金未払」は、まさしく「特定の金銭の支払い」を求めるケースですので、地方裁判所で民事訴訟を起こすのが適切なのです。

民事訴訟で権利を取り戻すための3つのステップ

民事訴訟の準備として、遺産分割協議書や預金通帳などの証拠を整理している様子。

 では、実際に民事訴訟を通じてご自身の権利を取り戻すためには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。ここでは、そのプロセスを3つのステップに分けてご説明します。法的な手続きに不安を感じるかもしれませんが、一つひとつ着実に進めていくことが解決への道を開きます。

ステップ1:証拠を集める

 民事訴訟において、最も重要と言っても過言ではないのが「証拠」です。裁判所は、当事者の言い分だけでなく、客観的な証拠に基づいて事実を認定し、判断を下します。どのような証拠が必要になるかは、ケースによって異なります。

  • 遺産の処分の場合:
    • 被相続人の預金口座の取引履歴や解約書類の写し(金融機関で取得できます)
    • 相手方が解約や払い戻しを行ったことを裏付ける資料
  • 代償金未払いの場合:
    • 遺産分割協議書

 何が有効な証拠となり得るのか、どのように集めればよいのか、判断に迷うことも多いでしょう。この段階から弁護士にご相談いただくことで、的確なアドバイスを受け、有利な証拠を効率的に収集することが可能になります。

ステップ2:相手方に対して請求を行う

 いきなり訴訟を起こすのではなく、その前段階として書面を送り考えを確認することが有効な場合があります。

 既に連絡を行ったにもかかわらず連絡を無視されている場合は、弁護士名義で書面を送付することで、相手方に対して法的対応の準備があることを明確に伝え、交渉による解決につながる場合があります。

 なお、相手方が無視をすることが確実であれば、ステップ3に直ちに移行することもあります。

ステップ3:訴訟を提起する

決意を固めて地方裁判所の前に立つ人物の後ろ姿。訴訟提起のステップを象徴している。

 連絡書面を送っても相手が支払いに応じない場合、いよいよ最終手段である訴訟提起へと進みます。

 訴訟を提起するには、「訴状」という書面を作成し、必要な証拠と共に管轄の裁判所(地方裁判所または簡易裁判所)に提出する必要があります。訴状には、請求の趣旨(何を求めるか)や請求の原因(なぜそれを求めるか)などを法的に整理して記載しなければならず、専門的な知識が不可欠です。

 訴訟が始まると、通常は1ヶ月に1回程度のペースで「口頭弁論期日」が開かれ、お互いの主張や証拠を出し合います。最終的には、裁判所が「判決」という形で法的な判断を下すか、あるいは裁判の途中で「和解」によって解決することもあります。

 この一連の手続きは非常に複雑で、一般の方がご自身だけで進めるのは負担が生じます。あなたの正当な権利を確実に実現するためにも、訴訟手続きは弁護士に任せることを強くお勧めします。

一人で悩まず、まずは弁護士にご相談ください

親身に相談者の話を聞く、吉口総合法律事務所の弁護士のイメージ。

 遺産分割前の財産処分や代償金の未払いといった問題は、単なる金銭トラブルにとどまらず、ご家族間の信頼関係を根底から揺るがす、非常につらく、大変な問題です。

 しかし、私たち吉口総合法律事務所は、このような困難な状況に置かれた方々の権利を取り戻すお手伝いをしたいと願っています。

 どの証拠を集めるべきか、どのような主張をすれば裁判所に認めてもらえるのか、そして、相手方とどのように交渉を進めていくべきか。私たちは、これまでの豊富な経験と専門知識を駆使し、あなたにとって最善の解決策を導き出します。

 東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では相続に関する30分無料相談を実施しております。

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