母が亡くなった後、母の遺産分割を行い、その際に将来の父の遺産分割について将来の相続人が合意をすることがあります。
このような合意がなされた後、父が実際に亡くなった場合には当該合意に従って遺産分割をしなければならないのでしょうか。
結論を先に申し上げれば、このような生前の遺産分割の合意には、法的な効力がありません。
弊所が実際に解決した事例を通じて、相手方の誤った主張をどのように退け、依頼者様の権利を守り、公正な解決へ導いたのかを解説します。
目次
1. 事例の概要と問題の所在
問題となった事例の概略は次のようなものでした。
2. 相手方の主張:「生前の遺産分割の合意」の有効性に固執
弁護士が代理人に就任した後も、相手方は生前の遺産分割の合意を主張し、生前の合意をもって遺産分割は既に終了しており、改めて協議や調停をする必要はない旨主張していました。
相手方は、その主張を一切曲げようとせず、この主張が通ってしまうと、依頼者様は本来受け取れるはずの法定相続分よりも少ない財産しか受け取れず、不当に不利益を被る状態にありました。
3. 解決のための手段:法的な無効性を徹底的に主張
弁護士は、裁判外での交渉において相手方が主張内容を変更する可能性が低い一方で任意の交渉を続けても時間を要するのみと判断し、遺産分割調停の申立てを行いました。
その上で、第三者である調停委員が関与する場において、相手方の主張の根幹である「生前の遺産分割の合意の有効性」を法的に否定し、相手方の主張の前提そのものを変える戦略を取りました。
遺産分割は「相続開始後」という原則の徹底主張
遺産分割協議は被相続人の相続開始(死亡)後に初めてできるものです。
東京地裁平成30年2月16日判決も次の通り判示しています。
『遺産分割は,共同相続した遺産を各相続人に分割する手続きであり,遺産及び相続人の範囲は,相続開始によって初めて確定するものであるから,遺産分割に関する協議は,相続開始後における相続人の合意によって成立したものでなければ効力を有さないものというべき』
このように生前の遺産分割の合意は、原則として法的な拘束力を持たないと解釈がなされているため、弁護士は当該解釈を前提とした主張を調停の場で行いました。
解決結果
弁護士が生前の遺産分割の無効を主張し続けた結果、相手方との間で、最終的に生前の遺産分割の合意の内容を踏まえない内容で合意が成立しました。
遺産分割調停は法定相続分に基づいた内容で成立し、依頼者様は生前の不当な合意に縛られることなく、自宅不動産や預貯金を含む遺産を公平に受け取ることができました。
4. 紛争を防ぐためには:被相続人による遺言書作成の重要性
本件のように、生前の相続人同士の話し合いで「将来の遺産分割」に関する合意をしても、それは法的に無効となるリスクが高く、かえって相続開始後の紛争の火種となってしまいます。
相手方の立場に立った場合、本件のようなトラブルを防ぐのであれば、生前の遺産分割の合意ではなく、最も確実で有効な手段は、被相続人ご自身による有効な「遺言書」の作成でした。
もちろん、遺言書は被相続人ご本人に記載していただく必要がありますが、事情を説明しこれに納得していただいた場合には、合意書の内容にそった遺言書を作成してもらうという方法をとることができることになります。
遺言書作成においては、遺留分など法的に考慮すべき点が多くあるため、専門家である弁護士に相談し、公正証書遺言を作成することをおすすめします。
弁護士からのメッセージ
生前の遺産分割の合意は、家族間の感情的なしがらみも絡み、非常に難しい問題になりがちです。相手方がその合意の証拠を持っている場合でも、その法的な有効性は全く別の問題です。
もし、あなたが「生前の約束だから」と不当な遺産分割を強いられていると感じたら、まずは諦めずに、相続問題に強い弁護士にご相談ください。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では、相続問題を重点的に扱っており解決のためのノウハウを有しております。
生前の遺産分割の合意を含む遺産分割の問題にお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。