アスベスト(石綿)は、その危険性を理由として現在使用等が禁止されていますが、過去には工業上の利用価値があることを理由にアスベストが多数利用されていました。
工事現場等においてアスベストが利用されたことにより、アスベストに曝露してしまい、現在中皮腫や肺癌等の健康被害が生じてしまっている方やご家族がアスベストを原因とする病気により亡くなってしまったという方もいらっしゃいます。
それでは、ご自身や家族にこのようなアスベストを理由とする健康被害が生じてしまった場合には、どのように対応すべきでしょうか。
本コラムでは、主として、アスベストが原因で家族が亡くなってしまったご遺族の方のケースを中心として、アスベストが原因で家族が亡くなった場合にどのように対応をしていけばよいかについて解説を行います。
目次
アスベスト被害による労災保険金・建設アスベスト給付金を受け取れる
過去に仕事を行った際にアスベストを扱い、それによって肺がんや中皮腫等の病気になった場合は、労災保険による保険金が受領できる可能性があります。
労災保険とは、事業者が法人・個人事業主であるかにかかわらず必ず加入しなければならない保険であるため、労働者である以上は労災保険の適用があります(会社側が労災保険の手続をしていなかったとしても、労災保険の申請は可能です。)。
また、労災保険による保険金にとどまらず、アスベストに起因した肺がんや中皮腫等の病気にかかった場合、建設アスベスト給付金制度に基づきアスベスト給付金を受領できる可能性があります。
これらの制度は、どちらか一つではなく、併せて給付を受けることが出来るため、両方の制度について各申請先に申請することをお勧めいたします。
アスベストに起因する疾病を理由とする労災保険給付
それでは、アスベストを理由とする労災が認められ保険給付が受けられる場合、どのような保険給付が受けられるのでしょうか。
労災保険によって受領できる保険金の例としては、①療養費②休業補償③遺族補償④葬祭料等があげられます。
まず、①療養費とは、労働災害に起因する治療費を受領できる保険給付をいい、②休業補償とは、療養のために労働できない場合に所定の賃金相当分を受領できる保険給付をいいます。
また、③遺族補償とは、働いている人が亡くなった時にその遺族が年金等を受領できる保険給付をいい、④葬祭料とは、働いている人が亡くなった時に葬儀等を行った者が葬祭料として費用を受領できる保険給付を言います。
これらの各種労災保険給付もいずれか一つではなく併せて受領することができるため、それぞれについて請求書や必要書類を提出して行うことになります。
建設アスベスト給付金制度による給付金
前述のとおり、アスベストによる健康被害にあった場合、労災保険とは別に建設アスベスト給付金を受領することも可能です。
建設アスベスト給付金として受領できる金額は、症状によって異なりますが、例えば建設現場で働いていた方がアスベストを理由とする中皮腫や肺がん等により亡くなった場合には、1300万円の給付を受領することが出来ます。
もっとも、上記給付金は、病気の内容によっては従事していた期間や喫煙の習慣の有無によって減額されることもあるため、その点について留意しておく必要があります。
アスベストに起因する労災やアスベスト給付金はどのような場合に認められるか
アスベストを理由とする労災はどのような場合に認定されるか
労災保険金を受領するためには、「業務上疾病にかかった」といえることが必要になります。
そして、アスベストの場合は、実際に罹った病気の内容によって労災が認められる具体的な要件が変わってきます。
例えば、中皮腫の場合は、①胸部エックス線写真で第1型以上の石綿肺所見があること②石綿ばく露作業従事期間が1年以上③最初のばく露作業を開始した時から10年未満で発症したものでないことという要件を充たせば、労災が認定されることになります。
また、肺がんの場合は、A,石綿肺の所見があることやB、広範囲の胸膜プラークがあり石綿ばく露作業従事期間が1年以上等の要件のいずれかを充たせば労災の認定要件を充たすことになります。
これらの要件を充たしていることを資料を添付する等して立証していく必要があります。
建設アスベスト給付金はどのような場合に支給されるか
「建設」アスベスト給付金という名称のとおり、①「日本国内において行われた石綿にさらされる建設業務」のうち、A.石綿の吹付けの作業に関する業務またはB.屋内作業場で行われた作業に関する業務に従事していたことが必要になります。
そして、②当該業務に従事していたことにより石綿(アスベスト)関連疾病にかかったという要件を充足することも必要になります。
「②当該業務に従事していていたことにより石綿(アスベスト)関連疾病にかかったこと」という要件については、支給要領では次のように記載されています。
すなわち、例えば中皮腫であれば、①胸部エックス線写真で第1型以上の石綿肺所見があること②石綿ばく露作業従事期間が1年以上③最初のばく露作業を開始した時から10年未満で発症したものでないこと等が要件となっています。
当該要件は前述の労災における要件と要件がほぼ同一であるため、事前に労災の認定を受けることが出来れば、建設アスベスト給付金の要件も充足しやすくなります。
アスベストによる労災保険金や建設アスベスト給付金を申請するためにはどうしたらよいか
それでは、実際に労災の保険金や建設アスベスト給付金を受領するためにはどのような手続を経ればよいでしょうか。
アスベストに起因する疾病を理由とする労災保険給付
アスベストを理由とする労災申請の場合は、最終ばく露事業場を管轄する労働基準監督署に労災保険の申請書を提出することになります。
労災保険の申請書は、厚生労働省のダウンロードページがあるため、そちらでダウンロードを行い、必要事項を記入することになります。
労災保険の申請書面を作成するにあたっては、前述のとおり労災が認定されるための労災認定基準があるため、アスベストに関連する業務に起因して病気にかかってしまったことを主張すると共に、証拠によって立証を行うことが重要になります。
建設アスベスト給付金制度による給付金
建設アスベスト給付金制度による給付金を受領するためには、厚生労働省宛に給付金の申請書を提出することになります。
労災の申請と同様に、申請書は、厚生労働省のダウンロードページがあるため、こちらもダウンロードを行った上で必要な情報を記載することになります。
建設アスベスト給付金制度の場合は、労災の認定の有無によって書式や手続が変わってくるため、労災の認定の有無に応じて書類を準備することに注意が必要になります。
労災の認定を受けている場合は、提出すべき必要書類が大幅に減りますので、建設アスベスト給付金制度を利用する前に労災認定を得ることがお勧めです。
終わりに
以上、アスベストが原因で家族が亡くなった場合にどうしたらよいかについて解説を行いました。
労災というのは頻繁に発生する者ではなく日常使う制度ではなく不慣れであることが通常であるため、ご自身で手続を進めた場合には、必要書類やその後の手続等に苦戦することもあり得ると思います。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では、弊所関与のもとアスベストを理由とする労災の認定を受けた実績がございます。
アスベストを理由とする労災または建設アスベスト問題にお困りの方は吉口総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。