前回の記事では,未婚で子供を出産した場合に子供の父親に養育費を支払わせるためには,養育費の合意を行う必要があることについて解説を行いました。
また,養育費の合意を行うに当たっての,その合意の書面化の必要性と書面化の具体的方法についても解説を行いました。
それでは,養育費の合意を行ったにもかかわらず,子供の父親が養育費を支払わない場合は,諦めなければいけないのでしょうか。
その答えとしては,養育費の回収をあきらめる必要はないというものになります。
中野区で無料相談対応の吉口総合法律事務所作成の本コラムでは,養育費の合意を行ったにもかかわらずこれを支払わない時に養育費を支払わせる方法を,今回の民事執行法の改正によりこれまで以上に養育費の回収をしやすくなった点も含めて,弁護士が解説を行います。
※なお,ここでも養育費を支払わない者を子の父親としておりますが,あくまで便宜上の設定にすぎませんのでご了承ください。
目次
相手方が任意に支払わない場合は強制執行手続を行う
裁判所に対する強制執行申立手続の概要
まず,子供の父親が養育費の合意をしたにもかかわらず養育費の支払を行わない場合は,地方裁判所に対して強制執行の申立を行う必要があります。
この強制執行を行うことにより,養育費を任意に支払わない場合でも,子供の父親の同意なく財産を差し押さえた上で売却し,その売却代金から支払いを受けることができるようになります。
また,強制執行手続により預貯金や給料を差し押さえた場合は,預貯金や給料の全部または一部から支払いを受けることができるようになります。
この強制執行の申立てを行う裁判所ですが,子供の父親の住所地を管轄する(近くの)裁判所になります。
ですので,例えば,子供の父親が東京23区に居住している場合は,養育費の請求を行う未婚の母は,東京地方裁判所に強制執行の申立を行うことになります。
ただ,強制執行の対象を行うためには,差押えを行う財産を特定した上で,強制執行の申立書等の書面を用意しなければいけません。
強制執行を行うためには差押えの対象とする財産を特定する必要がある
前述の通り,強制執行の申立てを行うためには,養育費を請求する未婚の母の方で差押えの対象とする財産を特定する必要があります。
典型的な差押えができる財産としては,不動産,預金,給与,保険(解約返戻金であり,掛け捨ての保険ではダメです。)等があげられますので,養育費の請求を行う未婚の母は,子供の父親が有するこれらの財産のうち,どの財産を対象として強制執行を行うかを決めなければいけません。
なお,給料については,子供の父親が退職をした場合給与から回収を行うことはできなくなってしまいます。
ただ,その場合であっても退職金債権を差し押さえることできますので,子供の父親の勤務期間が長い職場であれば,退職される危険性は相対的に小さくなると言えるでしょう。
強制執行を行うためには差押えの対象とする財産の調査を,養育費を請求する側で行わなければならない
強制執行を行うためにはどこまで財産を特定する必要があるか
前述の通り,強制執行を行うためには,養育費を請求する未婚の母の側で,差押えの対象となる財産を特定するに足りる情報の調査を行う必要があります。
もっとも,これらの財産については,現在の法律では裁判所が探してくれるわけではないので,養育費を請求する未婚の母の方で差押えの準備を行う必要があります。
財産を特定できるだけの情報の具体例としては,不動産であれば対象不動産の所在,預金であれば金融機関名と支店,給料であれば勤務先,保険であれば保険会社になりますので,これらの情報を特定する必要があります。
差し押さえる財産がわからない場合の手段について
① 決め打ちでの強制執行の申立て
子供の父親の財産の特定が難しい場合において,まずできることの一つとしては,決め打ちで銀行口座等を狙って強制執行の申立てをする方法があげられます。
例えば,子供の父親の自宅近くの金融機関の預金口座宛に強制執行の申立てを行う方法です。
ただ当然のことながら,対象となる財産が存在しない可能性もありますので,賭けになってしまうといえるでしょう。
② 財産開示手続について
次の方法としては,財産開示手続を利用する方法があげられます。
財産開示手続とは,裁判所が子供の父親に対して呼び出しを行った上で,現在保有している財産を開示するよう求める手続になります。
仮に子供の父親が裁判所の求めに対し出頭を拒絶した場合は,裁判所の判断により過料の制裁が課されることになります。
ただ,財産開示手続を行ったにもかかわらず子供の父親が出頭をしなかったとしても,過料の制裁が課されないこともありますので,必ずしも実効性が高い手続とは言えません。
弁護士であれば,調停調書や審判がある場合メガバンクの預金は全店照会が可能
養育費の請求を行うためには請求を行う側で特定をする必要がありますが,その調査は容易ではありません。
もっとも,メガバンクの預金に限られますが,弁護士であれば弁護士会照会という手続を使うことにより,父親が持つ銀行口座の調査を行うことができます。
弁護士会照会を行うことにより,銀行側が子供の父親の有している口座を回答しますので,養育費の請求を行う母側は,回答された口座に対し差し押さえをすることが可能になります。
このように,養育費の確実な回収を狙うためにも,養育費(債権)回収に強い弁護士に依頼するメリットがあるといえます。
3.民事執行法の改正により子供の父親の財産調査が容易になった
既に述べた通り,強制執行を行うためには,子供の父親の財産調査を行う必要があるところ,父親の財産がわからない場合は,強制執行を行うことが難しいという問題がありました。
このような養育費の回収が難しいという現状を踏まえて,令和元年5月10日に,民事執行法が改正されました。
改正民事執行法では,以下の制度が新設され養育費の回収が容易になっています。
なお,改正法の施行はまだされていませんが,公布の日から政令で定める1年以内とされていることから,令和2年の4月頃までには,今後施行がなされる予定です。
金融機関に対し,預金口座や証券口座の有無を開示するよう求められるようになった
前述の通り,強制執行をするためには,銀行預金であれば支店まで特定する必要がありました。
しかし,今回の改正では,裁判所が金融機関(銀行,信用金庫,証券会社等)に対し預金口座や証券口座の有無を照会できるようになりました。
この制度の新設により,メガバンクに対する弁護士会照会によって従前なされていた口座の調査以上の調査が,裁判所を介してできるようになりました。
今回の法改正では,メガバンク以外の金融機関に対して照会ができるようになったということが大きな変更点と言えるでしょう。
市役所や年金機構に対し,給与支払者(勤務先)の情報を開示するよう求められるようになった
次に,今回の改正により,財産開示手続を経た後にはなりますが,裁判所が市区町村や年金機構に対し給与支払者(勤務先)の情報を確認できることになりました。
給与所得者の場合,住民税が特別徴収(給与から天引き)されることがあるため,市区町村は勤務先を把握していることがあります。
また,厚生年金に加入している場合は年金機構が勤務先を把握しています。
そのため,裁判所が市区町村等に対し照会を行うことにより,子の父親の現在の勤務先が判明し給料の差押えが可能になってくるのです。
今回の法改正によって,子供の父親がサラリーマンである場合は,今後は給料から養育費の回収をすることが容易になります。
登記所に対し,不動産の情報を開示するよう求められることになった
最後に,財産開示手続を経た後に,裁判所が登記所に対し対象者の不動産情報の照会をできるようになりました。
不動産の登記は誰でも閲覧・取得することができるため,法改正前も,子供の父親の住所地の登記等を調べることは可能でした。
もっとも,自宅以外の不動産に関しては,相手方がどこの不動産を保有しているかを知ることは困難でした。
今回の改正により,登記所に対して情報開示が可能になるため,例えば,子供の父親が不動産を隠し持っていた場合において,養育費の回収をすることがより容易になりました。
4.終わりに
以上,養育費の合意を行ったにもかかわらず,子供の父親が養育費を支払わない場合において回収する方法を解説しました。
従前は養育費を支払わないケースも多かったですが,法改正により,養育費を支払わない場合は強制的にこれを回収ができるようになりました。
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