例えば,夫婦間の一方の不貞や暴力等により,他方配偶者が離婚をせざるを得ない状況に至った場合には,他方の配偶者は損害賠償請求を行うことができます。
では,これらの行為が夫婦でなく,婚約者間でなされたとしたら,婚約をした他方当事者は損害賠償請求を行うことができるでしょうか。
また,仮にそのような損害賠償請求が認められるとすれば,損害賠償請求額はどの程度認められるものなのでしょうか。
中野区で無料法律相談対応の吉口総合法律事務所では,次の3点について順に解説を行うことで,この種の紛争における典型的な争点を整理してみたいと思います。
すなわち,
①どのような事情が存在する場合に婚約の成立が認められるか
②婚約の成立が認められるとして,どのような事情が存在する場合に婚約の解消が不当となるか
③婚約破棄が認められるとして,認容されうる損害賠償請求の金額はどのようなものか
という3点について弁護士が解説をしたいと思います。
目次
第1 どのような事情が存在する場合に婚約の成立が認められるか
婚約破棄といえるためには,その前提として婚約が成立していることが必要になります。
ここで,婚約とは,婚姻の予約,つまり,男女の間で将来婚姻することを約することをいいます。
もっとも,婚姻届の提出の有無によって判断できる婚姻とは異なり,婚約には様々なバリエーションがありえます。
そこで,どのような事情があれば婚約の成立が認められるかが問題となります。
法律の規定では,どのような事情があれば婚約が成立するかということは定められていません。
そのため,婚約の成立の有無は個別具体的にきまりますが,
儀礼的行為(結納,婚約指輪の授受等)の有無,交際期間の長短,同棲関係ないし肉体関係の有無,周囲に婚姻を前提とした関係であることを打ち明けていたかどうか,婚姻の準備行為(結婚式場の手配,新居の内覧等)の有無及びその進捗状況
といった事実から婚約の成立を検討することになります。
第2 どのような事情が存在する場合に婚約の解消が不当となるか
仮に婚約が成立していた場合には,婚約破棄による損害賠償請求が認められるかが問題になります。
婚約が破棄された場合であっても,それが正当な理由によるものであれば,損害賠償請求をすることができません。
では,どのような場合に正当な理由がない婚約破棄といえるのでしょうか。
この点についても,個別具体的な事情によって判断されることになりますが,例えば,
婚約中における他の異性との交際や肉体関係の存在,妊娠中絶の存在,暴力等の事情
がある場合は,正当な理由のない婚約破棄と認定されやすいといえるでしょう。
第3 婚約破棄が認められるとして,認容されうる損害賠償請求の金額はどのようなものか
婚約破棄による損害賠償請求が認められるとしても,具体的にいくらの損害賠償請求が認められるのでしょうか。
事案の特徴によりますが,概ね婚約破棄による損害賠償請求としては,25万円~300万円程度の範囲が多いと思われます。
それでは,慰謝料額に大きく影響する事情とは,どのようなものでしょうか。
この点については,慰謝料額を増額する方向に作用する事情としては,ここでも
交際期間の長短,婚約の公表,婚約破棄にあたり暴力・不貞行為・妊娠中絶を伴っていないか,婚約破棄によって婚約者に精神的障害が生じたか否か,及び,婚約破棄当時の婚約者の年齢
等の事情があげられます。
他方で,慰謝料額を減額する方向に働く事情は,
婚約者に対し解決金その他の名目で金員が支払われた事情や,婚約者側にも婚約破棄の原因の一端があること
等を挙げることができます。
第4 具体的な裁判例
婚約破棄の有無が争われた事案において,裁判例では婚約破棄をされた原告が婚約破棄をした被告に対して損害賠償請求をした事案において,以下のように原告の請求を認めています。
①約2年間の交際期間の後(肉体関係も存在した),原告が結婚を前提に新居用不動産を購入し,また,両親や友人に婚約者として互いを紹介済みであった。
このような状況で被告から婚約破棄がなされ,その際に被告の暴力がなされ,その結果原告はうつ状態との診断を受けた事案では,300万円の慰謝料が認定されています(神戸地裁平成14年10月22日判決)。
②原告と被告に約5年間の交際期間がありその際にウェディングフェアに行ったこと,原告が被告の家族に紹介済みであったこと,また,被告が婚姻届に署名・押印をした(提出はしていない)という事情がある中で,被告が原告との婚約中に他の女性と同棲し,婚約破棄後その女性と結婚した事案では,100万円の慰謝料が認定されています。(東京地裁平成15年7月9日判決)。
③約5カ月の交際期間において,被告からプロポーズをされ,その後,原告及び被告の各親族に紹介した上で,婚約の承諾を得た事案において,婚約破棄により原告が妊娠中絶したのみならず,被告は原告が妊娠した子が自身の子であることを争い,DNA鑑定により証明されない限り中絶の同意書を作成しないと主張した事実等から120万円の慰謝料が認定されています(東京地裁平成21年6月22日判決)。
第5 終わりに
以上が婚約不履行による損害賠償請求に関する記事になります。
婚約不履行に基づく損害賠償請求は,婚約の成立自体が個別具体的な事情によって異なってくるので,早期に弁護士に相談することが重要だと言えます。
婚約不履行に基づく損害賠償請求にお悩みの方は,中野区で無料法律相談対応の吉口総合法律事務所までお気軽にご相談ください。